「がんサポート」 山本孝史+埴岡建一 特別対談2(06年12月号)

山本と埴岡建一氏(医療ジャーナリスト)

 がん医療に、患者と家族らが政策決定に関与できるようになったことが画期的

1人ガムシャラになってやる人間がいれば、政治を動かすことができる

 参院本会議場でがんを告白し、がん対策基本法の成立に大きな役割を果たした参議院議員の山本孝史さんと医療ジャーナリストの埴岡健一さんとの対談の第2弾。
今回は、抗がん剤治療を受けて感じたことに加えて、いよいよがん対策基本法が成立するまでに至る紆余曲折、その成果と今後の課題、患者運動はどうあるべきかについて詳しく語ってもらった。

他の患者さんに比べて、恵まれていると思った

埴岡 山本さんは5月22日に参議院本会議の場で白らのがんを公表しましたが、その前後では、どんな違いがありましたか?

山本 進行がんであることを公表したことで、私白身も、まわりの人たちも、要らない気遣いをしなくて済むようになり、自然に言葉を交わせるようになりましたね。公表するまでは、何を話すにしても、がんであることを言わずに話のつじつまを合わせないといけないわけですよ。それってけっこう大変なことなんで、それで頭を悩ますよりは、話さないほうがいいと思い、白分からは語りかけなくなっていました。民主党の同僚議員の人たちも、もちろん僕ががんであることはわかっているんだけど、私が公表していない以上、そこを避けざるを得ないから、話しかけてこなくなる。
  でも公表した後は、そうした気詰まりな状況は一変しました。カツラをかぶっていようが、バンダナでいようが、要らない説明をする必要がないわけですから。同僚議員の人も気が楽になったと思います。がんであることを前提に僕に話しかけられるので、エレベーターの前で顔を合わせたときなんか「顔色が良くなったですねえ」「体調が前よりよさそうに見えるけど、お加減はいかがですか」といった感じで、声をかけられるようになりました。

埴岡 山本さんの場合、先ほどおっしやったように、選挙のことや、公職のことがあるので、進行がんであることを公表することは、大きなリスクを孕んでいたと思うのですが、がん患者さんには、それぞれに、その方の立場になってみないとわからないような悩みや不安があるように思うんですね。国立がんセンター中央病院では4人部屋のときもあったそうですが、それをお感じになることはありませんでしたか。

山本 それは痛切に感じましたし、他の患者さんに比べれば、自分は本当に恵まれていると思いました。相部屋になった人たちは比較的若い人たちだったんですが、食道がんの手術を受けた方は、まだ働き盛りの年齢なのに、「もう、窓際族ですよ」と、ため息混じりに話していました。
  もう1人の方は、今後外来通院で治療していく場合、仕事をこなしながら病院に通う時間を作れるか心配していました。自営業の方は、明日からの生活のことを考えると、暗澹たる気持ちになると言っていました。そんな話を聞いていると、僕の場合、治療に割く時間を自分で決められるし、目先の収入を心配しなくてもいい。だから、本当に恵まれていると思いました。子供がいないので、妻のことだけ考えればいい点も、他の患者さんに比べれば、恵まれていますよね。

低い医師のコンサルテーション費用

埴岡 抗がん剤による治療を受ける立場になって、真っ先に感じたこと、疑問に思ったことは何でしょうか。

山本 こんなことが、なぜまかり通っているんだろうと思ったのは、医師のコンサルテーション料が信じられないくらい低く抑えられていることです。治療を受けたあと、診療明細を見ると、抗がん剤投与を受けた場合、「再診料」と「注射料」という項目があるんだけど、再診療は千円に満たないような額なんです。これが診察やコンサルテーションに対する対価なんですよ。注射料がけっこう大きな数字になっているから、病院はその部分で潤っているように見えるけど、実際はこの部分は病院を「素通り」するだけなんですね。従来は薬価差益があったんだけど、それが大幅に縮小されてしまったので、患者が支払ったお金は納入した製薬メーカーに行ってしまい、病院はこの部分ではほとんどメリットを享受できない。これでは、病院ばかり非難できないと思いましたね。

埴岡 医者とともに高度な専門的職業とされる弁護士の場合、相談料は30分5千円、1時間だと1万円です。それに比べると、格段に低く設定されているように思います。

山本 しかも病院の場合、その再診料で医師の人件費だけでなく、看護師や検査技師、職員などの人件費、病院の維持管理費まで賄わないといけないわけです。国立がんセンターの主治医は「診療報酬を考えていたら、治療はできない」とおっしやっていましたけど、病院にとって、抗がん剤投与による進行がんの治療は、やればやるだけ赤字が膨らむ構図になっているのが現状です。そのためどこの病院も、本音を言えば抗がん剤治療が必要な患者はなるべく受け入れたくないし、医者も、時間のかかるきめ細かい医療は、したくてもできないと考えている。こういう事情は国立がんセンターのようなところでも、例外なくあるわけです。

「抗がん剤治療はすべて外来で」は疑問

山本 この前、参院厚労委のメンバーで国立がんセンター東病院に行ったんだけど、これからは基本的に抗がん剤を使った治療は全部外来でやるというので、ちょっとそれはないだろうと思いました。確かに外来投与というのは、一策ではあると思うけど、抗がん剤投与の場合、人によっては大きな副作用が出るケースもあるので、1回目は患者の様子を見ながら慎重に投与しないといけないわけですよ。だから「初めて抗がん剤投与を受ける人も外来投与なんですか」って、訊いたんです。そしたら「基本的に全員です」と言うんですよ。
  厚生労働省の研究班が行った研究でも、外来投与療法でいけるという結果が出ていると言うんですよ。その研究というのは、外来投与をやるときに、まず、すべての患者さんに、こういう症状が出たら、こう対処するということをマニュアルを渡して教育するんだそうです。マニュアルの中には、副作用で40度の熱が出たときは抗生物質を服用するというのもあるんだけど、患者さんを、抗生物質を渡したグループと、渡さないグループに分けて様子を見たところ、渡さなかったグループは何人かが抗生物質を貰いにきたけど、渡したグループは全員来なかった。だから抗生物質を事前に渡しておけば自分でマニュアルを見て対処するから、外来投与で十分やっていけるという結論になる。これって、進行がんの患者の立場からすれば、とても「はい、そうですか」と、聞ける話ではないわけですよ。抗がん剤を始める患者さんはみんな不安でいっぱいなんです。よくそんなことができるなと思いました。せめて1回目の投与のときくらいは、入院させて何の不安もない形で治療をスタートすべきだと思います。

埴岡 患者さんによっては、なるべく自宅にいたいと思うなど、受け止め方が違うかも知れませんが、抗がん剤に対しては、心理的な抵抗感が大きいので、始めから自分で副作用にも服薬等で対応してくださいということになれば、不安に苛まれてがん難民化するケースもあるかも知れませんね。

診療報酬制度を改めるしかない

埴岡 抗がん剤治療に関しては今、山本さんがおっしやったように、時間をかけて、さじ加減を調節しながらやれば、結果的に病院の経営を圧迫する要因になるという困った現実がある。これを打開するにはどうしたらいいとお考えですか。

山本 診療報酬を一律に適用する今の制度を改めるしかないと思いますね。医者がろくにコンサルテーションもしないで患者に通り一遍の診察をしても、コンサルテーションに時間を割いて、最新の知識を使った抗がん剤の処方を行っても、報酬は同じというのはどう考えてもおかしいですから。レベルの高い診療を行っている病院をどう評価するかという問題はあるにしても、何かしら工夫をしないと、患者1人ひとりに時間をかけられないから、標準治療の名のもとにベルトコンベア的な治療で済ますことがますます多くなるのは必至です。この弊害はけっして小さくないと思うんです。
  進行がんの患者の立場から言わせてもらえば、標準治療の名のもとに行われている画一的な治療でも、最初の投与ではそれほど違いが出ないと思うんですよ。最初の薬の組み合わせが効かなくなって、次の治療法、その次の治療法をどうするかとなったときです。この段階でいい治療を受けられるかどうかは、医者が最新の知識を持っているかどうかにかかっています。日頃から新しい情報を熱心に集めて勉強している医者は、組み合わせをいろいろ工夫して対処できるけど、そうじゃない人はすぐに行き詰まってしまう。その結果、患者は見放されてがん難民が大量に発生することになるのではないでしょうか。

緩和ケアに関心の低い厚生労働省

埴岡 がん対策基本法は山本さんの奮闘もあり、最初の与党案が60点だったとすれば、最後には80点くらいつけてもいい内容になったと思っています。でも、緩和ケアの問題は付帯決議には盛り込まれたとはいえ、条文の表現は不明確でした。さらに90点95点と評価できるものにするには、緩和医療の充実の問題は避けて通れないと思うんですが。

山本 その通りです。じつは患者さんのグループとお付き合いするようになって、お叱りを受けたのも、がん対策基本法では緩和ケアのことについてほとんど触れられていないことなんですよ。これについては「すいません」と言うしかないんだけど、がん対策基本法は、緩和ケアに関心が低い厚生労働省の考えが強く反映されている与党案がベースになり、それにこちらの考えを可能な限り組み込んでいって成立にこぎつけたものなので、今回は付帯決議にも加えて、フォローしました。

埴岡 この問題とがん登録が盛り込まれなかったことは非常に残念でしたが、先程申しましたように、これまで役人と医者が支配してきたがん医療に、患者とその家族、遺族が政策決定に関与できることになった点で、がん対策基本法の成立は画期的な出来事だったと思います。
  私はがん対策基本法が成立するまでの道のりに3段階があったと見ています。まず、昨年春からの、がん患者団体が主要政党の要となる議員に対してがん対策の強化をロビイングした第1段階。そして、今年春に民主党と公明党が、がん対策法を具体的に提案してから国会で議論がなされた第2段階。最後に、山本さんが質問してから与党案に修正が加わって法案成立に至った第3段階です。それぞれの段階で汗をかいた人がいて、いろんなことがうまく連続的に回転して、成立まで至ったと見ることができます。
  ここで、あの5月22日の参議院本会議での質問から、6月16日に成立するまでの経緯をお聞かせいただきたいと思うのですが、ジャーナリストとしての目で見ると、あのころはまだ法律の成立はとても流動的でした。「不可能」が「可能」になったともいえる要因として、やはりあの5月22日の質問のインパクトがあったと思います。
  あの質問がなければ、がん対策基本法は成立したかしなかったか分からないですね。あのからだを張った主張が、議員の皆さんの心を揺さぶったといっても過言ではないと思います。アンケートをとったわけではないけど、議長が質問時間を過ぎても山本さんの発言を止めなかったように、議員の方たちも皆さん強いインパクトを受けながら聞いていたことは確かです。与党側の席からも拍手が出たくらいでしたから。それと、もう1つの要因は、提案者会議の3人のメンバーである仙谷由人さん、鴨下一郎さん、福島豊さんの3人が山本さんと本音で信頼して話ができる親しい関係だったという偶然も重なったという点が見逃せないように思います。

山本 その通りです。5月22日から6月16日までは、25日間しかないのに、与党案にどんどんこちらの案を盛り込んでいって、あれだけ長い付帯決議まで採択される形で成立にこぎつけたのは、同じ党の仙谷さんだけでなく、自民の鴨下さん、公明の福島さんとも信頼関係があったからだと思っています。鴨下さんは僕と同じ日本新党の出身ですし、福島さんとも新進党時代、坂口厚生大臣の下で一緒にやっていたことがあるので、仲間内のような感じで扱ってくれて、お2人とも参議院議員の僕が衆議院の提案者会議に加わってあ
れこれ注文をつけることを快く許してくださったんですよ。普通だったら有り得ないことですから、お2人の度量には本当に感謝しています。

埴岡 それと、これはある関係者から聞いたんですが、あのときは国会内で与野党が医療法の改正を巡って“ケンカ”していた状況があり、完全決裂とならないためには、何らかの“成果”が必要だった。そういう事情で、医療政策の面で、与党にも、どこかで野党と協調して、いいものを作ろうという機運があったので、がん対策基本法にとって非常にいい構造ができ上がっていたように思うんですよ。山本さんの5月22日の質問で、それに一気に推進力が加わったという面もあるのではないです。

形骸化したがん対策推進本部

山本 がん対策基本法では民主党や公明党が早い段階で対策チームや法律案を作って成立に積極的だったのに対し、自民党は消極的な意見が最後まで根強くあって、最後まで対策部会ができなかったんだけど、鴨下さんが精力的に動いて自民党内の意見を取りまとめて法案への合意ができるところまで持っていったことが大きかったと思います。

埴岡 ぎりぎりセーフのタイミングでしたね。鴨下さんも頑張られましたね。また、前厚労大臣の尾辻さんと鴨下さんの連携プレーもよかった。

山本 鴨下さんの尽力で自民党にも部会ができたことが、成立の決定打になったと思っています。部会ができたことで、消極派もやむなしという雰囲気になりましたから。

埴岡 先程60点の与党案が、最終的に80点をつけられる内容になって成立したと申しましたが、あとで最初に出てきた与党案と、成立した法案の条文を読み比べてみると、よく短期間にここまでいろんなことを加えることができたと思わずにはいられません。

山本 与党案=厚生労働省案といっていいのですが、基本計画に何を書くかということが十分煮詰められていなくて、その部分がスカスカの印象があったんです。これはまずいと思いました。

埴岡 厚生労働省は当初、1年前にがん対策推進本部が省内に設置され、がん対策アクションプランや10カ年計画が策定されたばかりなので、新たに法律を作るということは自分たちの努力を否定することになると、がん対策基本法には消極的だったわけですね。山本さんは参議院の厚生労働委員会で川崎厚労大臣に大変うまい質問の仕方をして、がん対策推進本部が形骸化してしまっていることを印象付けましたね。あのときは健康保険法の改正に関連した質問に立って、「最後にがん対策のことですが、大臣、すみません。大臣は厚労省の中にがん対策推進本部があることはご承知だと思いますが、昨年10月にご就任以来、出席されたことはありますか」と質問し、大臣から「私白身は1度も出席したことかあり
ません」という答えを引き出したのでした。

山本 川崎さんにはずいぶん失礼な聞き方になっちやったけど周囲の厚労省職員に「僕は出たことあるのかな」と聞いているんですよ(笑)。厚労省の中にそんなものを作っても、がん対策の要としての機能をまったく果たせないことを広く知らしめる必要があったので、あのような質問をしたんです。

協議会へのがん患者代表の参加

埴岡 がん対策基本法では、新設される、がん患者とその家族の代表、医療関係者、学識経験者の代表で構成されるがん対策推進協議会が本部としての機能を担うことになるわけですが、こうした3者の代表からなる協議会が設置されることになったのは、どんな背景があるのですか。

山本 がん対策の本部となる機関に関しては、民主党は内閣府に「がん対策本部」を作るというプランでした。ところが、少し前に自殺対策基本法の民主党案を出した際、内閣府に本部を設置することの難しさを痛感していたので提案を断念し、厚生労働大臣を長とする「がん対策本部」にがん関係閣僚会議を置くという案で妥協を図ったんですが、これは現状では困難だと与党側から強く反対されたため、それに代わる案として、僕のほうから、「厚労省内に、がん患者の代表も参加する形で、がん対策推進協議会を設置してはどうか」と提案したんです。これに対し、鴨下さんが「これで党がまとまるよう、二汗も三汗もかいてみましょう」といって頑張ってくださったので、がん対策推進協議会の設置が決まり、与野党の最終的な合意案ができ上がったんです。

埴岡 山本さんは、がん対策推進協議会のメンバーとなる20人のうち、患者の代表は何人くらいが適当というお考えだったんですか。

山本 3者構成になっているんだから20入のメンバーを3分の1ずつに割り振ることにして、それを付帯決議に明記したらどうかと言ったら、厚労省に消されてしまいました。役人の発想というのは常に引き算なんですね。こういう方にも入っていただかないといけない、この方も必要というふうにやっていくから、どんどん患者代表に割り振られる椅子が減っていく。「いくらなんでも1人はないだろうと抵抗し、最終的に患者代表は「1人ではなくて複数ですよね」となって、2人にすることになったんです。

旗振り役がいないがん患者

埴岡 がん対策の要となる協議会にがん患者が参加することは大変意義があることですが、患者団体のほうは、それに対応できる体制になっているのでしょうか?

山本 現状を見る限り、ハッキリ言ってそれに十分対応できる体制ができているとはいえないと思っています。一番の問題点は三浦捷一さんや佐藤均さんのような、わかりやすい旗印を掲げてがん患者の先頭に立つカリスマ的な人がいないことじゃないかと思います。このお2人が旗振り役になってNHKまで動かして、多くのがん患者団体が参加する「がん患者犬集会」が開催されるところとなり、そこからがん患者支援機構が生まれたんだけど、彼らが亡くなったあと、それに代わる人材がまだ出てこないため、次に何をやるか、見えてこないんですね。
  佐藤さんが求心力を発揮できたのは、進行がんの患者として「オキサリプラチンの早期承認」という、切実でわかりやすい旗印をからだを張って主張したからだと思うんです。だからそれを中心にまとまることができた。これまで佐藤さん、三浦さんたちが行動を起こして、いろいろ成果をとってきたのだから、この流れはぜったいに絶やしたくない。いろいろ注文をつけるテーマがまだまだあるんだし、がん対策推進協議会という発言の場も用意されたんだから。

埴岡 結局は人なんですよね。365日、24時間、がむしゃらになってやってくれる人が出てきて欲しいですね。そして、みんなをまとめる熱いハートと冷徹に戦略を練る頭脳を兼ね備えた人だと理想的なのですが。

山本 三浦さんが亡くなったのが昨年の12月20日で、その直後にがんが見つかったから、僕白身、三浦さんからバトンタッチされたんじゃないかと思うこともあるけど(笑)、国会議員が出て行くと、自分の政治活動に利用していると誤解される恐れがあるんですよ。だから、僕自身が出て行くわけにはいかない。いくら言っても、なかなか反応してくれる方が出てこないので、先行きが不安になることもあります。

政治を動かすには目に見える活動とマスコミ

埴岡 切実で説得力のある要求を前面に押し出して、国会で政治家に陳情や請願を行わないと、結局のところ政治を動かす力には成り得ないわけですからね。

山本 重要なのはそこなんですよ。インターネットでいくら患者の意見を吸い上げて、メールで送っても、何も動かないけど、厚労省が小手先の対応では逃げられないような要求を考えて、国会で「僕たちも頑張るから、議員さんたちもひとつ頑張ってください」と言えば動くんです。動かないものを動かすには、そこから始めないとダメでしょうね。いつまでも「人がいない、カネが不足している」と言っていられる状況ではなくなっているんだから。
  手前味噌で恐縮だけど、こんなことを言うのも、若いころ、ガムシャラになって交通遺児家庭救済の運動を前に進めた経験があるからなんですよ。僕は交通遺児育英会に入る前、大学生のときにポランティアで「大阪交通遺児を励ます会」というのを作って、交通遺児の子供たちをレクリエーションに連れて行ったり、家庭訪問したり、遺児と母親の声を集めた作文集を作る活動をしていたんですね。その輪を全国協議会を作って広げようとしたんだけど、ミーティングで出るのは「人がいない」「資金がない」「集まる場所がない」という話ばかりなんです。それでも、1人ガムシャラになってやっている人間がいればみんなついてくるんですよ。
  その場合、重要なのは活動を目に見える形でマスコミを通じて社会にアピールすることです。そうすれば、ボランティアも増えて、人の輪はどんどん広がっていくんですよ。そうなればおカネはあとからついてくる。ネットでやっているだけでは、人の熱い想いというか、心の温度みたいなものまでは伝わってこないから、そうした状況は生まれません。政治を動かす力になるには、月に1回でもいいから東京かどこかで仲間が集まり、意見を重ね合わせて会が目指す方向性を決めることが重要なんですよ。それで会としての目標が定まれば、あとは分担を定めて具体的な行動を始めればいいんです。

地域から変えていくことの重要性

埴岡 たしかに日本のがん患者会はまだまだ発展途上ですが、癌と共に生きる会」が島根県などで、県議会に地域のがん医療改善を求める要望書を提出して、県立病院における臨床腫瘍科の新設、あるいは、県議会での「抗がん剤治療専門医の育成に関する意見書」の採択といった、成果を得ていることは注目に値すると思うのですが。

山本 おっしゃるとおりです。これからの課題は、地方のがん医療をいかにしてレベルアップさせるかということだから、各地域の人たちが知事や県議に陳情し、自分たちの地域を変えていくことは大変重要です。その場合、必要になってくるのは、そうした地方で活動している患者団体を統括する事務局だと思うんです。それがあれば、あっちでここまでやっているのだから私たちの県でもそれを認めさせようと相互に刺激し合うような状況が生まれますから。

埴岡 各県レベルだと、県議会や地方マスコミとの距離が近いから、できることから始めていけば、必ず成果が出るでしょうからね。

山本 そうなんですよ。県会議員に陳情を行い、その一方で地元の新聞に投書すればいいんです。8月に大阪の患者団体のチャリティに出たとき、来ていた方たちに「大阪の病院は全館禁煙が6割に止まっているから何とかしましょう」と言ったら、ちょっと盛り上がっていました。各地域で何か足りないか、何か必要なのかを絶えず考えながら目標を定め、政治やマスコミにアピールしていけば、役所も動くんです。各県にそういう面でりーダーシップをとる人が、1人ずつ出てきたら、これは大変な力になりますよ。
  誤解してはいけないのは、役所の方もけっして患者の声を疎ましく思っているわけではないということですよ。彼らは自分からは動かないけど、患者側から要求が出て、声をかければ会合にも来てくれるんです。先日も、大阪で患者会のチャリティがあったとき、大阪府でがん医療を担当している保健医療福祉部の課長補佐の方に来てもらって、がん対策基本法成立後の大阪府のがん対策を説明してもらったんだけど、がん患者団体の皆さんは、今後運動を展開する上でたくさんのヒントを得たと言っていたし、課長補佐の方も「じつは今まで患者さんたちとの接点がなかったので、今後はこういう集まりを継続的に持っていきたい。基本法ができた以上、こちらもがん患者の声をしっかり受け止めて、行政に反映させていきたい」と語っていました。

参考になる米国患者団体の活動の仕方

埴岡 いくつかの県で、お互いが頑張れるところを決めてやっていけば大きな力になると思うし、それが積み重ねて、成功事例の情報を交換しあうようになれば、地方のがん医療は飛躍的に前進すると思うんですよ。

山本 埴岡さんは患者団体の方たちにアメリカでは患者団体がどんな活動をしているか、わかりやすく紹介していると聞いていますが。

埴岡 アメリカのやり方を参考にするのも1つの手だと思って、手始めに患者団体の方たち向けの講演会で、アメリカではどんなことをやっているかお話したのですが、70名くらいが来て下さって、興味深く聞いてくれました。この前はロビーイングのやり方を説明したんですが、皆さんが興味を待ったのは各団体が地方議会では、各議員がさまざまな法案の採決の際、賛成、反対のどちらに票を入れたかを投票履歴(ボーティングレコード)を取って、陳情する際の参考にして効果的にロビー活動を行っていることでした。地方の団体は、地方での活動に重点をおいていて、ワシントンの連邦議会の議員に陳情に行くのは年1回、それも各団体が一緒になって行っているんです。

山本 それと、もう1つ重要なのは、他の県で行っている優れた取り組みを実際に目で見て、仲間に伝えることじゃないでしょうか。静岡がんセンターが行っている「よろず相談」のような取り組みは、1度、見ておくといい刺激になるんじゃないでしょうか。
  これは、患者や家族が抱えるさまざまな悩みや人に言えない心配事に医療ソーシャルワーカーや看護師がわかりやすい言葉で答える取り組みで、がんセンターに来院できない遠方の患者さんには電話相談だけでなく、患者のいるところまで出向いて出張相談までやっているのがいいですね。
  最近はセカンドオピニオンを提供するサービスもあるようで、患者本位の医療を追求している試みの最たるものです。

埴岡 そうですね。   特別対談3へ