神戸新聞 「正平調」 (07/06/07)

「これはがんではなく、転移せず、深くはならない。がんになる場合もあるががんにならないこともある…」。

東京五輪の開幕直前の一九六四年九月、国立がんセンターは入院中の首相池田勇人の病状を、こんなふうに発表した

◆うすうす気付いていたようだが、今のように本人への告知が定着していない時代だ。しかも現職首相だから政治的な影響が大きい。といって、うそはつけない。で、苦心の末に「前がん状態」という見立てをひねり出した

◆やはり現職の首相だった石橋湛山の場合のように、軽い方の肺炎を発表して、症状の重い脳梗塞(こうそく)は伏せるという例もあった。政治生命にかかわるという理由で、政治家の病気は機密扱いだった

◆しかし、最近では自ら告白するケースが目立つ。昨年、参院本会議の質問に立った際にがん患者であることを明らかにした民主党の山本孝史議員に続き、四日には自民党の川口順子元外相が難病「ギラン・バレー症候群」と診断されたと発表した

◆九十一年前に症例を報告したフランス人医師の名が付いたこの難病は、筋肉を動かす運動神経に障害が生じ、手足に力が入らなくなる。重症だと呼吸不全に陥ることもある。元外相は筋肉の回復のため車いすで活動中だが、経過はいいという

◆山本議員、川口元外相ともに、夏の参院選比例区に出馬予定だ。結果はともかく、二人には体験を大いに語ってもらいたい。患者はどんな苦しみや不安と向き合い、何を求めているのか。国民に伝えるのは、政治の重要な役割だろう。

 

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