2006年 5月22日 参議院本会議
 

山本孝史君 民主党・新緑風会の山本孝史です。

  質問に入る前に、衆議院厚生労働委員会において、議論が尽くされないまま与党が本法案を強行採決したことに強く抗議します。前回健保法改正案の審議時間五十一時間三十分と比べても、今回はわずか三十四時間余り、しかも大改正となる医療法の改正案の審議も含めてです。与党に猛省を求めるとともに、患者本位の良質な医療を実現するため、本院では十分な審議時間を確保することを与党に強く求めます。

  それでは、理想の医療を目指された故今井澄先生の志を胸に、また、私事で恐縮ですが、私自身がん患者として、同僚議員始め多くの方々の御理解、御支援をいただきながら国会活動を続け、本日、質問にも立たせていただいたことに心から感謝をしつつ、議題となりました二法案について質問をいたします。

  まず総理に、日本の社会保障の将来像についてお尋ねします。

  テレビで全国中継もされた先月四月十九日の衆議院行政改革特別委員会の総括質疑で、総理と安倍官房長官から社会保障に関して次のような御答弁がございました。

  まず、安倍官房長官は、これまで政府が実現すると言ってきた小さくて効率的な政府と、提出法案名の「簡素で効率的な政府」の目指すところは基本的に一緒だ、我々が目指すところは、社会保障制度、この正に安心の仕組み、セーフティーネットそのものを小さくしていくことではない、このことを申し上げておきたいと御答弁されました。

  聞いていて、私は首をかしげました。例えば一昨年の年金改革、与党は、マクロ経済スライドを導入して、今後、基礎年金だけの人も含めて、年金額を実質一五%カットするという非常に厳しい給付削減策を導入しました。介護保険も障害者福祉も、給付水準の引下げと給付範囲の大幅な縮小が行われました。労働法制も緩和され、派遣やパートなどの非正社員が急速に増えました。

  総理、小泉政権の五年間は、結果として見れば、セーフティーネットそのものを小さくしていく過程となったのではないでしょうか。総理の率直な御所見をお聞かせください。

  同委員会では小泉総理も、安全とか防衛、治安、教育、福祉の必要最低限度の部分、こういうどうしても必要な部分は政府がやる、あとはできるだけ能力のある人は自由に活動してくださいと述べられました。

  自民党政治がもたらした国家財政や地方財政の破綻により、社会保障の水準は下がる一方です。国民は将来に大きな不安を抱いています。年金や今回の医療費のように、社会保障費の削減目標を国民に示すのであれば、同時に、政府は国が将来にわたり維持する水準を示す責任もあります。

  総理御自身がおっしゃった政府が保証する福祉の必要最低限度の部分について、将来どの程度のレベルとなるのですか。年金の所得代替率は将来五〇%を保証するということになるのでしょうか。今年度、六十五歳から支給される老齢基礎年金は四十年加入の満額で月額六万六千円ですが、将来とも政府が保証する基礎年金額は現在価格に置き換えれば幾らになるのかなど、具体的な数字も含めて、年金、医療、介護など日本の社会保障の将来像について総理の丁寧な御説明をお願いをします。

  前回、平成十四年の健保法改正案の附則に、与党は、将来にわたって負担割合は三割とすると書き込み、総理も三割負担が限界とかつてこの場で答弁をされました。将来、保険免責制の導入や三割以上の負担となることがあるのでしょうか。また、患者負担の増額は貧富の差が受けられる医療の格差に直結するとの認識はお持ちでしょうか。

  恐れ入りますが、二〇一一年度までに十兆円の歳出削減を行うとの議論に関係しておられる総理、厚労大臣、財務大臣、経済財政担当大臣にそれぞれ御答弁をお願いします。

  医療費を削減するには診療報酬の引下げが手っ取り早い方法ですけれども、これ以上診療報酬を引き下げると、医療従事者としての使命感で過重労働に耐えている人々が黙って医療現場を離れていくことを加速されます。私自身、入院や通院を通じて医療現場に余裕がないことを肌身に感じています。

  医療費の半分以上は人件費です。病院でもらう医療費の明細を見てください。何と診察料や技術料の安いことか。診療報酬はもっとめり張りを付けるべきだし、高い外国製の医薬品や医療機器の価格を見直すべきです。領収書の明細書発行は、医療に対する患者の受け身的な姿勢を変え、医療費への国民の関心と理解を高める手掛かりになります。

  政府内では更に診療報酬を下げることも検討されていますが、それは医療崩壊を招きます。医療や介護は地域経済に貢献し、雇用も生み出していることも御認識ください。

  診療報酬について今後どのように考えておられるのか、再度、総理、厚労大臣、財務大臣、経済財政担当大臣のそれぞれに御答弁をお願いをします。

  次に、独立型の高齢者医療制度の創設について伺います。

  政府案では、七十五歳以上の高齢者は、それまで加入していた国保や健保などから抜けて、別の新たな制度である高齢者医療制度に加入します。そして、受診時の自己負担は一割、現役並みの所得がある者は三割です。給付財源は、高齢者が負担する保険料で一割、公費が五割、残りの四割は現役世代の保険料に上乗せして徴収する後期高齢者支援金で賄います。この後期高齢者支援金は、負担と給付の関係にはないために税金と同じです。

  このように、給付財源の九割を公費や後期高齢者支援金で賄う仕組みでは、介護保険法の改正で実証済みですけれども、高齢者医療費をもっと削減しろと圧力が掛かることは必至です。高齢者には若い者には迷惑を掛けたくないと思わせ、若い者には高齢者は早くいなくなればいい、そのように思わせるような制度をつくっていいのでしょうか。

  総理や厚労大臣は、高齢世代と現役世代の負担を明確化し、分かりやすい制度とする必要があると説明されますが、そもそも年金と違って、病弱な高齢者を含む医療制度において世代間の負担の公平を強調することは間違っています。

  提案理由では、七十五歳以上の高齢者の心身の特性を踏まえて、それにふさわしい医療サービスを提供するとされますが、まだ治癒の可能性が残っているにもかかわらず、安易に延命と決め付け、積極的に治療しない、あるいは高齢だから治療をしても意味がないとされて見放される、それではまるでうば捨て山です。団塊の世代の高齢化に伴う認知症や病弱な高齢者の増加、さらには死亡者が急増する多死社会、多く死ぬ多死社会への対応は大きな課題ですけれども、法律や制度が人を死に急がせることを私は決して認めるわけにはいきません。

  七十五歳を境に、高齢者に対する診療内容や診療報酬はどのように変わるのですか。まだ先のことですとか、これから検討するという答弁ではなく、提案理由に盛り込んだのですから、厚労大臣に明快な答弁を求めます。
 
  前期高齢者の財政調整の仕組みは、これまでの老人保健拠出金の仕組みと全く同じです。あわせて、税制改正のあおりを受けて、国保保険料の算定方式を住民税方式から所得比例方式に変える動きが、北九州や札幌、大阪、福岡などの政令指定都市で相次いでいます。

  混乱の反面、自営業者も給与所得者も、ともに所得に応じて保険料を払うことになるのですから、医療保険制度の一本化が視野に入ってきます。私が指摘したさきの問題点も含めて、それでも独立型の高齢者医療制度の創設は正しい選択だとお考えなのか、総理にお尋ねをいたします。

  次に、四十歳以上七十五歳未満の全国民が健診を受けるよう医療保険者に義務付けることについてお尋ねをします。

  今井澄先生は、無理やり健診を受けさせて、病気になるぞと脅すことに反対でした。健診データを保険者間で共同管理・利用することも不安です。国の責務は、自己責任論の強調ではなくて、国民が自ら健康管理するように知識を持たせ、健診を受ける必要性を認識させることであって、ましてや医療費削減のために健診を義務付けることではないと私は考えます。自分の健診データという最もセンシティブな情報がどこかで総合的に管理されている社会に住んでみたいのですか。そもそも、全員健診で医療費は将来どの程度削減できるのでしょうか、厚労大臣にお尋ねをします。

  後期高齢者支援金は、負担に対する見返りとしての給付がないにもかかわらず、その料率は法律では明確に規定されていません。これは租税法律主義に反するのではないか。また、後期高齢者支援金は本来は税で賄うべき性格のものではないのか、厚労大臣にお尋ねをします。

  厚労大臣には、事業主に保険料を通じて自らの被保険者ではない後期高齢者への支援金や療養病床転換金まで負担を求める根拠を明確に示してください。

  財務大臣には、この際、社会保障財源としての企業への外形標準課税と、医療や保健事業の財源としてのたばこ税増税の是非について御認識をお聞かせをください。

  後期高齢者支援金や支払基金の事務費、特定健診や保健指導の財源、さらには療養病床の転換支援金までが保険料財源を通じて支出されます。若年者の保険料負担の実に半分が自らの医療給付費以外に使われます。新たな財源が確保できないからといって、何でも保険料として一括して徴収し、後は自由に配分するというのでは、医療保険制度への国民の信頼が失われてしまうのではないでしょうか。厚労大臣の答弁を求めます。

  国民皆保険の下、いつでも、どこでも、だれもが最良の医療を受けられるとの目標と現実との間には大きな落差があります。総理は、今後どのような方針の下で医療提供体制を整備すべきだとお考えですか。これまでの目標は放棄せざるを得ないのか。地方における医療機関の集約化によって病院が遠くなることは仕方がないことなのか。プレハブ教室で学んだ団塊の世代の最後はプレハブ病棟となっても仕方がないのか。どうぞ、総理のお考えをお聞かせください。

  医師不足・偏在問題への対応策として、地域医療の担い手としての家庭医の養成、自治医科大学と同様、一定期間、地元での医療従事を条件とする入学定員枠の拡大が必要と考えますが、文部科学大臣の御所見をお聞かせください。

  また、総理には、多額の税金の投入によって養成される医師には職業選択の自由を若干制限することも許されるのではないかとの提案について、是非御所見をお聞かせをください。

  最後に、がん対策法の今国会での成立について、議場の皆さんにお願いをします。

  日本人の二人に一人はがんにかかる、三人に一人はがんで亡くなるという時代に入っています。乳がんや肝臓がんなどは若い患者も急速に増えています。今や、がんは最も身近な病気です。しかし、がん治療には地域間格差、施設間格差があって、治療法があるのにもう治らないと言われて見放されたがん難民が日本列島をさまよっています。厚労省もがん対策推進室やがん対策本部を設置しましたが、どのようなレベルでの治療が全国で行われているのか、その実態すら残念ながら把握をしていません。

  がん患者は、がんの進行や再発の不安、先のことが考えられないつらさなどと向き合いながら、身体的苦痛や経済的負担に苦しみながらも、新たな治療法の開発に期待を寄せつつ、一日一日を大切に生きています。私があえて自らがん患者だと申し上げましたのも、がん対策基本法の与党案と民主党案を一本化し、今国会で成立させることが日本の本格的ながん対策の第一歩となると確信するからです。

  また、昨年、本院厚生労働委員会では、自殺対策の推進について全会一致で決議を行いました。そして、自殺対策に取り組む多くの団体の要望に基づいて、自殺対策推進基本法の今国会での成立に向けて各党での取組が進んでいます。

  私は、大学生のときに交通遺児の進学支援と交通事故ゼロを目指してのボランティア活動にかかわって以来、命を守るのが政治家の仕事だと思ってきました。がんも自殺も、ともに救える命が一杯あるのに次々と失われているのは、政治や行政、社会の対応が遅れているからです。

  年間三十万人のがん死亡者、三万人を超える自殺者の命が一人でも多く救われるように、がん対策基本法と自殺対策推進基本法の今国会での成立に向けて、何とぞ議場の皆様の御理解と御協力をお願いをいたします。

  総理にも、国会議員のお一人として、この二つの法案の今国会での成立にお力添えをいただけないか御答弁をお願いして、私の質問を終わります。

  御清聴ありがとうございます。(拍手)
 
   〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇、拍手〕

 
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