超党派議員による年金シンポジウム

自民、公明、保守新、民主、自由、共産、社民の主要7政党の担当者が、一堂に会し、年金改革で意見交換するのは初めてのことです。 この企画は、昨年9月になくなった民主党の今井澄参議院議員の遺志を受けて実現しました。今井さんは、「利害が入り組む医療と違い、年金は純粋数理の世界。政争の具にしてはならない」と訴え、昨年7月に超党派の勉強会を発足させました。 それ以来、私が、勉強会の事務局長を努め、今回のシンポジウムを企画・準備してきました。(山本記)
朝日新聞「くらし」(2003年6月4日)より

財源や給付水準巡り議論 与野党国会議員がシンポ

 04年に迫った年金改革をどうするのか。与野党の国会議員が2日、東京都内で初めての公開討論に臨みました。やりとりでは、基礎年金の国庫負担の割合についてはこれまでの3分の1から、2分の1に引き上げることで一致しました。ただ、その財源や実施時期をめぐる各党の考え方は異なっていました。保険料の負担と年金給付の水準に関しても、さまざまな意見が出ました。与野党の議論を整理してみました。(山田邦博、高橋万見子)

「若年層の信頼」課題に

 「保険料分の給付が受けられないのに、なぜ払わなければいけないのか」。古川元久氏(37)=民主=が若い世代の心情を代弁して発言した。与野党の議員たちが課題としてあげたのは、若年層の年金制度に対する信頼回復だ。

 少子高齢化が進み、高齢者を支える現役世代の負担はこれから間違いなく増える。それを見越して保険料率に上限を設ける「保険料固定方式」に変えようとする厚生労働省の基本的な方針には大半の議員が同調した。

 年金の給付水準の考え方は微妙に異なる。

 「現役世代に比べた所得保障ではなく、老後に最低必要な生活保障に変えるべきだ」。民主の古川氏や山本孝史氏(53)は高額の年金受給者にもまんべんなく配分される現行の基礎年金の見直しを提唱した。

 福島豊氏(45)=公明=は「基礎年金と報酬比例部分で役割が違う。医療、介護で高齢者負担が増えることを考えれば、基礎年金はむしろ充実してもいい」と訴えた。津島雄二氏(73)=自民=は「給付と負担はセットで議論するべきで、給付カットだけでは適切な結論は出ない」と極端な給付抑制を牽制(けんせい)した。

給付カットは年金制度への不信を高める、と唱えたのは小池晃氏(42)=共産=だ。「倒産やリストラで年金の支え手が減少している」と、雇用拡大を含む総合政策の必要性を訴えた。

 保険料より税負担を重視する声も出た。森ゆうこ氏(47)=自由=は、保険料を今の水準(労使折半で年収の13.58%)以下にし、不足分は高齢者も負担する消費税で補填(ほてん)する立場をとる。井上喜一氏(71)=保守新=は「基礎年金は将来、全額税負担にするべきだ」とし、財源は消費税に求める考えを示した。

 これに対し、山本幸三氏(54)=自民=は「社会保障は自主自立が基本。努力なしの給付は受け入れられない」と反発した。

税負担引き上げで一致 消費税問題で思惑ずれ

 保険料固定方式導入の是非や、給付と負担を考える際の前提となるのが、基礎年金の国庫負担の割合だ。税金の割合が決まらなければ、保険料や年金の具体的な計算はできない。

 7政党の出席者が現行の3分の1から2分の1に引き上げる点で一致したのは訳がある。

00年に成立した前回改正法の付則に「安定した財源を確保して2分の1に引き上げる」と明記されているからだ。「2分の1は国会の意思」(津島氏)、「これ以上、先送りできない」(福島氏)との発言は改正法の付則を意識したものだ。

 とりわけやっかいなのは付則の「安定した財源」の部分だ。広く薄く徴収できる消費税を意識した表現であることは間違いない。

 大脇雅子氏(68)=社民=は「消費税をひきずりこんではいけない」と反対し、共産も「公共事業などの見直し」との意見だ。自由党は「消費税の方が公平」との態度だが、野党第1党の民主党の立場は不鮮明だった。

 与党側の歯切れも悪い。当面の財源として、自民、公明は「年金控除の見直しなど」、保守新は「知恵を絞る」と述べるにとどめた。

消費税問題をめぐって、小泉首相は「在任中は引き上げない」と繰り返している。04年は参院選があり、衆院も任期満了を迎える。衆院解散・総選挙をにらんで与野党とも真正面から負担増は打ち出しにくい時期にさしかかっていることが年金論議を難しくしている。

各党参加者の発言

自民党・津島雄二氏

社会保険方式を維持。基礎年金の国庫負担率を早く2分の1に引き上げる。全額を税にすると第2の生活保護になり反対。

民主党・山本孝史氏

2分の1引き上げは一歩前進と評価。ただし、国庫負担を低所得者に重点配分する「国民基本年金」に転換すべきだ。

公明党・福島豊氏

保険料の上限がわからない改革は信頼を失う。国庫負担2分の1引き上げは先送りせずに決着をつけるべきだ。

共産党・小池晃氏

国庫負担は直ちに2分の1に。財源は公共事業削減などで確保し、消費税増税は反対。今の給付水準を維持すべきだ。

自由党・森ゆうこ氏

保険料は今の水準以下に抑制、消費税は社会福祉目的に限定する。2分の1引き上げは年金の安定との点で同意する。

社民党・大脇雅子氏

社会連帯、共助の仕組みを基盤にし、年金の個人単位化を進める。基礎年金の給付水準は月10万円まで引き上げる。

保守新党・井上喜一氏

基礎年金の国庫負担は当面2分の1とし、将来的には全額にするのが望ましい。財源は消費税抜きでは考えられない。

キーワード

04年の公的年金改革

 公的年金は5年に1度見直されている。厚生労働省は昨年末、現役の負担に上限を設ける「保険料固定方式」への転換を提案した。厚生年金の場合、保険料率を20%程度(労使折半)まで段階的に引き上げて固定し、年金給付は人口や経済変化にあわせ自動的に調整する。試算では、出生率が現状程度だと、最終的に年金額の現役世代の手取り年収に対する割合(所得代替率)は現行の59%から52%程度に下がる。

 これに対し、経済財政諮問会議や財務省は、国民負担率の抑制や年金債務の縮小を主張。保険料率を18%以下にし、給付を大幅に減らす案などを提示している。