第16回神戸シンポジウム(額田勲先生追悼会)
神戸生命倫理研究会主催
山本孝史は生前に、神戸・みどり病院の額田勲院長に、臓器移植やがん医療の分野で大変お世話になりました。額田先生は、2012年7月12日にがんにより逝去されました。享年72歳でした。
山本自身、がんを患い、額田先生がお書きになった「がんとどう向き合うか」を読み、勇気づけられた点がたくさんあったかと思います。山本の書評はこの頁後半をご覧ください。
シンポジウム「地域で生命倫理を考える ~脳死・孤独死・終末期~」
講演:「神戸生命倫理研究会の歴史を振り返る」神戸生命倫理研究会 津田明彦
講演:「額田勲が遺した未来へのメッセージ」神戸生命倫理研究会 村田 敬
特別講演:「1.17から3.11へ」東京大学医科学研究所 特任教授 上 昌広
パネルディスカッション:「暮らしの中の生命倫理」
私自身、何度か額田先生とお会いし、直接お話しを伺ったこともあります。常に患者さんや弱い立場の方々に寄り添い続けた医師でおられました。山本と重なる点が多く、涙を禁じえませんでした。
パネルディスカッションのテーブルの右端には額田先生の遺影がありました。(山本ゆき)
「未来への手紙」
額田 勲
神戸生命倫理研究会編集
岩波ブックセンター(2013年7月14日)
第1章:一人称の死
がんとともに生きていくということ
「がん死」とどう向き合うか
第2章:三人称の死
ある女性患者さんの物語
高齢者のがん治療について
山本たかし 書評
額田勲『がんとどう向き合うか』
岩波新書、2007年5月
私が平成5年の総選挙で国会議員となった時、厚生委員会での懸案は「臓器移植法」だった。生命倫理にかかわる問題は、国民が参加して議論する機会を増やさなければならない。そう考えた私は、川島康生国立循環器センター総長(当時)や西岡芳樹弁護士らを招いたシンポジュームを大阪で開催した。額田勲先生と初めてお会いしたのは、その会場だったと記憶している。
額田先生は、神戸みどり病院理事長として、充実した地域医療の提供に努められている。と同時に、神戸生命倫理研究会代表として、脳死・臓器移植、終末期医療問題等を通じて、「生と死」について積極的に発言しておられる。
そんな額田先生の体からも、がんが見つかった。本著の前半では、普段の診察でがん患者の悩みや苦しみを受け止めてこられた額田先生が、がん患者からの視点も加えて、現行のがん対策やがん医療を検証された。そして、医療現場に「ゆとり」がないことが、医師を追い詰め、患者に大きな不利益をもたらしていると警告する。現場からの声として、説得力がある。
最近のがん対策基本法の制定、がん診療連携拠点病院の指定、がん対策情報センターの開設など、最近の動きも、ていねいにフォローされており、有益な提言が並ぶ。情報収集では一段と有利であることを自認する額田先生でも、治療法選択で悩んだというエピソードは、「医療とは何か」を改めて問うている。
本書全体を流れるテーマは、進行がん患者にはいずれかの時点で訪れる、生と死を巡っての「選択と決断」である。「治る」「治らない」の二分法で医療を語る時代は過ぎたのではないか。治らない患者が、その人生をどのように生きるか。額田先生は、自らをも含めて、読者に問いかけておられる。
額田先生の『がんとどう向き合うか』は、がん患者本人や家族だけでなく、「がん=国民病」の時代を生きるすべての人に、人生や医療について考える多くのヒントを与えてくれる。それぞれの立場や人生観で読み方は異なるだろう。しかし、いずれの人にも有益であることは間違いない。一読をお勧めする。