切実な患者の思い対策法制定に尽力 がんを告白した山本孝史参院議員〔日本経済新聞 SUNDAY NIKKEI α〕
日本経済新聞 SUNDAY NIKKEI α「駆ける」 2006年6月18日掲載
「がん患者はがんの進行や再発の不安、先を考えられないつらさと向き合い苦しみながら一日一日を大切に生きている。救える命が1人でも多く救われるよう協力を」。五月二十二日の参院本会議での質問の冒頭、自らががん患者であることを公表し、がん対策基本法案の制定を訴えた。
政治家が自分の病名を公表するのは異例。健康問題は政治生命にかかわるからで、ましてや生死にかかわる大病であればひた隠しにするのがもっぱらだ。それだけに、この“告白”は多くの議員の心を揺さぶった。質問が終わると、議場には拍手がわき起こり、涙ぐむ議員もいた。
がんとわかったのは昨年末。すでに手術や放射線治療は難しい状態だった。以来、月一回の抗がん剤治療を受けながら政治活動を続けてきたが、がん告白については本会議質問をすることが決まってから二ヵ月悩んだ。しかし「切実な患者の思いを伝えるためには当事者としての言葉が必要」と思ったという。
当時、がん法案は与党と民主党がそれぞれの案を国会に提出、与野党の対立ムードの中で協議は停滞。通常国会での成立が危ぶまれていた。それが質問を機に早期制定を求める機運が高まり与野党が法案を一本化。事実上の会期最終日の十六日に成立にこぎつけた。
五歳で二つ年上の兄を交通事故で亡くした経験から、学生時代から交通遺児の支援活動に従事。九三年に国会議員になってからも一貫して社会保障政策を手掛け、薬害エイズ問題や自殺問題などで「声なき声」を国政に反映させようと活動を続けてきた。
年間三十二万人以上の死亡者を出し、日本人の死因の第一位であるがん。生涯において二人に一人はがんにかかり、三人に一人は亡くなる。がん対策の基本方針を示す法律はできたものの、地域による医療の質の格差や患者への情報の不足など、取り組むべき課題は山積している。
「できるだけ長く仕事をしたい。まだまだやるべきことはたくさんあるし、私にとって仕事はこれからですから」