vol.7 2002年11月〜12月
11月3日号
子どもの臓器提供を認めるか否か
臓器移植法で認められていない子どもの臓器提供を認めるようにとの請願署名が、110人の与野党議員が紹介議員となって国会に提出されました。
しかしながら、子どもの臓器提供を親の承諾だけで認めることは、本人の意思を尊重することを法の基本理念としている臓器移植法とは相容れません。
私は同法の制定に当たって、慎重派として論陣を張りました。早急な法の見直しを求める声には、慎重な議論を求めたいと思います。また、移植法が制定されて脳死移植が実施されたこと、選挙を経て議員の顔ぶれが変わったことなど、法制定前との状況の変化を踏まえて、臓器移植法について、改めて議論する必要を感じます。
「生と死」に関する幅広い議論を
子どもの臓器提供を認めるか否かという狭い議論ではなく、政治にとっては苦手なテーマですが、「生と死」についての幅広い議論を展開すべきだと思います。
その理由に、1.厚労省が終末期医療のあり方を検討していること、2.福祉現場でのターミナルケアを論ずる動きがあること、3.子育て支援策が議論されるなかで、不妊治療への保険適用を求める声がありますが、生殖補助医療が想像を超える早さで展開されている、などの動きが一斉に進んでいることが挙げられます。
自己決定権の在り方も議論すべし
おりしも、衆院憲法調査会が中間報告を衆院議長に提出しました。様々な論点がありますが、臓器提供や終末期医療は、憲法13条の「幸福追求権」と関連しています。13条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています。
私は、日本国憲法は必ずしも日本社会に定着していないのではないかと考えています。民主主義とは何かを真剣に考え、日常生活に定着させる作業を怠ってきたことが原因だと思います。
生命倫理をテーマに、自己決定権について考える。これも、<論憲>の一部です。
国会ミニ報告
◆提出していた「PCB安定器の処分に関する質問主意書」への答弁書が内閣から届きました。依然として国の施設の21%で使用されていることが判明。早急な対応を!
◆「特養は儲けすぎている」と厚労省。しかし、求められるのは介護報酬の切り下げではなく、黒字を職員の新規雇用や待遇改善に振り向ける措置ではないでしょうか。
◆生活文化研究所主催の「空堀まち歩き」に参加。私が在園した桃園幼稚園や、母親と買い物に来た空堀商店街など、想い出をたどりながら、「まち再生」のヒントを探りました。
11月10日号
米国中間選挙で民主党敗退
11月5日、米国の中間選挙で共和党が、上下院で過半数を制しました。
「経済、教育、福祉が争点となるべきだ」と民主党候補者が訴えても、テロ撲滅やイラク攻撃など、「強いアメリカ」を訴えた共和党候補者に支持が集まったようです。長老のモンデール候補や、ケネディ家の名声も及ばなかったことも含めて、選挙での勝利の方程式を見せ付けられたようで、極めて示唆に富んだ選挙でした。
なんだか、次期衆議院選挙における我が民主党の姿がダブって見えたのは、私だけでしょうか。
党首討論 提案型の攻め方を評価
6日、今国会2回目の党首討論がありました。
鳩山代表は、自殺遺児の作文集「自殺って言えなかった」を手に、3万人を超える自殺者の背景には、小泉経済政策の失政があると指摘し、中小企業への資金対策の充実、倒産すれば身ぐるみはがれてしまう倒産法制の見直し、「1兆円規模の住宅・教育ローン減税」など、具体的な政策を提言して、小泉総理の「丸投げ」姿勢と対決しました。
小泉総理の失政を糾弾するだけでない、「提案型」の姿勢に私は高い評価を与えたのですが、夜10時のNHKニュースでは、男性キャスターが「今日は地味でした」とコメント。もうちょっと、まともな感想が言えないのかなぁ。
同日、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、公定歩合を0.5%引き下げ、年0.75%にすると決定。56年半ぶりの低水準です。アメリカの景気減速感が強まってきました。近畿の9月の失業率は最悪の7.6%です。景気対策とセーフティネットの充実が急がれます。
年金PT発足 拉致被害者の年金は?
7日、民主党の年金プロジェクトチーム(PT)が発足。私が座長を務めます。
厚労省から、政府内でのこれまでの議論の到達点と、主な論点について説明を受け、質疑応答。出席した議員からは「これ以上、保険料を上げることは現実を直視していない議論だ」との声がある一方で、「年金額は減額するべきではない」との意見もありました。どちらももっともな意見です。さらに議論を盛り上げて、民主党の考え方をまとめます。
議論を聞いていて、ふと脳裏に浮かんだのは、北朝鮮拉致被害者が帰国したときの年金の扱いです。
中国残留邦人については、「中国残留邦人帰国促進法案」を議員立法で成立させた際に、中国で生活していた期間は年金に加入していたとみなす特例措置が法律に盛り込まれ、保険料の追納も認めました。低所得のため追納が困難な人には、国が資金を貸し付けることになりました。もっとも、追納は現実的でないため、帰国者は少額の年金しかもらえず、「国がなすべきことをしなかったから帰国できなかった。そのため低額の年金しか受け取れない」として、国を相手取っての裁判を起こしています。
北朝鮮拉致被害者も年金に加入していたとみなし、保険料については北朝鮮側に支払いを求めるか、日本政府が一旦払い、その後北朝鮮に請求するとの線で政府は整理しているようです。
年金保険料の扱いを巡って、中国残留邦人と北朝鮮拉致被害者との間で、扱いに違いがあっても良いのでしょうか。いずれにしろ、中国残留邦人帰国促進法のように、特別措置法が必要ではないかと思っていたら、8日の新聞に、自民が議員立法検討との見出しがありました。
11月18日号
どっと押し寄せる法案審議
11月も半ばを過ぎ、臨時国会も会期末まで1ヶ月余り。参議院厚労委は、これから、母子寡婦福祉法(児童扶養手当の削減法案)、厚労省関係の9つの特殊法人を独立行政法人化する9法案、国立病院の独立行政法人化法案など、盛りだくさんです。
19日(火)と21日(木)に、母子寡婦福祉法の改正案審議で質問に立ちます。学生時代から交通遺児家庭(ほとんどが母子家庭)の支援運動を続けてきましたので、力を込めて質問しなければと、資料の読み込みを続けています。
参議院で審議される法案は、原則的に先に衆議院で審議されていますので、衆議院での審議状況も追いかけておかないと、衆議院と同じ質問を繰り返し、「参院は衆院のカーボンコピー」との批判を跳ね返せません。衆議院での厚労大臣や官僚の答弁を踏まえて、さらに突っ込んだ質問をしなければならないので、衆議院時代と違った意味で大変です。
因縁のめぐり合わせですね
そんな中での楽しみは、過去の審議録を読み返していて、いま大臣になっていたり、党の幹部になっていたりする人が質疑している場面に出会うことです。
かつて私は、「母子家庭の母親の雇用促進法」の制定を、政党や役所に働きかけていました。いいところまでいったのですが、最後に労働省が「母子家庭は母親が再婚したり、子どもが二十歳になったりすると母子家庭でなくなる」と難癖をつけて、法案を葬り去りました。
そのとき、答弁に立った労働省婦人少年局長が森山真弓さん。そう、今の法務大臣です。
離婚による母子家庭にとっては、別れた父親からの養育費確保が課題です。諸外国では公的な養育費取立て制度や、国による立替払い制度が整備されています。日本でも整備を求める声が大きくなっていますが、森山法務大臣は消極的です。
「また、あんたかいな」というのが率直な感想です。
国会ミニ報告
◆指定都市の議員からの陳情会合があり、大阪からは、高卒就職率の悪さ、増えるホームレスへの対策の充実が求められました。近畿の失業率は7・6%で最悪。雇用対策費の増額が不可欠です。
◆来年度の政府予算への対応を大阪市・大阪府幹部と協議。市内の河川の汚染がひどいので対策費をとの要望。「水都・大阪」を謳うには、お粗末な状況が放置されていたものです。
11月24日号
参議院の存在意義
大概の法案は、衆院で審議され、各党が賛否を表して議決された後に、参院に送られてくる。先週審議した「母子寡婦福祉法の改正案」も同様だ。すでに衆院段階で、賛成多数で可決されている。今の政党の勢力図だと、参院で審議された結果、法案が否決されるということはない。
参院では、衆院でなされたのと同趣旨の質問もなされる。「二番煎じ」で、時間とお金の無駄と怒られそうだが、実は、衆院で審議が尽くされているといえない時もある。
母子寡婦福祉法でも、衆院の議事録を読み返すと、厚労省の担当局長の答弁が実に曖昧なのだ。「再度、しっかりとした答弁を求めておかなければ、大変なことになる」。そんな気持ちで質問を重ねた結局、参院では、衆院より1時間多く審議することになった。民主党の姿勢を明確にする観点から、法案の修正案も提出した(自民党委員から、「この修正案ぐらい認めてもいいのにね」との声も)。
特殊法人の独立行政法人化法案
「本来は、衆院段階でしっかり審議しておくべきじゃないの」とのご指摘は、ごもっともなのだが、特殊法人の独立行政化法案のように、46法案を一括して特別委員会で審議するという無茶苦茶を与党側がすると、参院での審議が重要となる。
特殊法人の独立行政化法案は、参院では関連する委員会で個別に審議する。厚労委員会でも9本もの法案を審議する。なかでも、医薬品副作用被害者の救済基金を、医薬品の開発や審査と同一の組織に再編する法案などは、人命のかかわる重大性からみて、委員会審議も数日かけるような重要法案。でも、衆院で
は、こうした重要法案も含めて、厚労関係9本の法律を、わずか4時間40分あまりの審議で可決してしまった。
こうなると、参院が「最後の砦」。衆院での審議の穴を埋めるべく、しっかり審議しなければならない。責任重大だ。今日も日曜日だが、早めに大阪から東京に戻って、国会の事務所で、同僚議員に質問を割り振る準備をしている。
ちなみに私は、参議院は決算や行政監視の役割を強めて、税金の無駄遣いや、行政の怠慢・間違いを指摘し、改善させることに力を入れるのが良いのではないかと思う。
意図的なマスコミ報道
22日の金曜日、全議員が出席する両院議員総会が開かれ、10月27日の統一補欠選挙の総括が話し合われた。
夜のNHKニュースは、「多くの議員が抗議の意味から欠席した」と伝えたが、そもそも金曜日の午後といっても、委員会が開会されていることも多く、抗議の有無にかかわらず、欠席せざるを得ないこともある。
もちろん開会に必要な定足数には達しているのだが、NHKニュースに代表されるように、民主党に関する報道は「党内のごたごたが続いている」ことを印象付けるようなコメントばかりになっている。
国会議員としての責任
こうしたマスコミの姿勢は大いに問題だが、民主党としてもここで団結を示さなければ、世間の我が党に対する視線を変えることはできない。国会が閉会になる12月13日までに、今一度両院議員総会を開会して、徹底した党内議論をすべきではないか。集まる時間は夜中でも良いと思う。そうしないと、国会議員としての国民への責任が果たせないのではないか。
補正予算の編成が決まって、来年の通常国会の開会は早まるだろう。民主党は1月18日に党大会を開くが、そこで団結を示すことができなければ、通常国会は戦えない。それは、4月の統一地方自治体選挙での敗北につながるし、党の地方組織が大打撃を受ける。
来年の通常国会で、国民の期待に応えて小泉デフレ内閣と戦うためにも、民主党に残されている時間は少ない。私たち国会議員は、国民に対する責任を、第一に考えなければならない。
12月2日(月)号
統計調査の信頼性
離婚家庭の命綱となっている児童扶養手当を大幅に減額する法案が、先々週の参議院厚労委で審議された。
担当の岩田雇用均等児童家庭局長は、「年間の勤労所得がどこまでの家庭に、児童扶養手当を全額支給するかを決めるにあたって、日本労働研究機構(厚労省所管の特殊法人)に母子家庭の調査を特に依頼した。その結果、常勤世帯の平均勤労収入は342万円、パート世帯では133万円との結果を得た。そこで、130万円を全額支給の上限額とした」と、政策決定に至る経緯を説明した。
パートで働く母子世帯の平均賃金を超えたら手当を削減するというのは、あまりに短絡的だと思うが、その問題は別の機会に論じるとして、ここでは日本労働研究機構の調査を問題にする。
私は、長年、交通遺児家庭(ほとんどが母子家庭)の実態を見てきて、日本労働研究機構が出した、「母子家庭の平均収入(常勤)342万円」は、数値が高すぎると直感的に受け止めた。
母子家庭の収入状況については、厚労省の大臣官房統計情報部が行っている「人口動態社会経済面調査」というものがあり、平成9年には「離婚家庭」を対象に調査を行っている。それによると、離婚母子家庭の年間勤労収入は252万円とされている。日本労働研究機構の調査とは90万円もの差がある。
岩田局長に、「この先行する調査結果を知っているか」と尋ねたら、「見ていません」という。自らの省内で行っている調査を知らずに、外部に委託した調査結果を鵜呑みにしているのだ。
おまけに、同じ厚労省統計情報部は、労働者の賃金調査を行っており、そこでは女性の賃金が細かく調査されているが、その数字は、日本労働研究機構の調査結果と数字が近い。しかし、そうであれば、母子家庭の収入は一般女性の勤労収入と同じとなり、経済面での支援の必要性は薄くなる。そんなバカなことはない。
いったいどんな調査をしたのか。また、そんな調査を信じて政策決定をした局長は、どんな神経をしているのか。不思議でならない。
今週の厚労委では、この日本労働研究機構の不可解さに切り込む。
先行する厚労省の3独立行政法人の実態
厚労省関係では、昨年3つの国立の試験研究機関が独行法人化された。そこで、11月28日の委員会審議では、3法人の理事長を国会に呼んで、独行法人化の是非を審議した。
これらの法人の平成13年度決算報告を見ると、研究費を削って、会議室の備品やプロジェクター(それぞれ1千万円)、雨漏りする屋根の修理(2300万円)などに流用している。
独行法人の運営費は、渡し切りとなっていて、独行法人の判断で使用できるが、研究者なら喉から手の出るほど欲しい研究費を、まったく関係のない経費に使って良いのか。
ある独行法人の決算書には、ここでも研究費が削られて、通信運搬費400万円が計上されていた。通信運搬費を予算にまったく盛り込んでいなかったとか。そんな予算の立てかたは許されるのか。あきれてしまう。
これが国立の試験研究機関の実態の、ほんの一端だ。
新党・会派統一騒動について
会派問題や新党問題でお騒がせして申し訳ない。
細川政権が崩壊して、日本新党の解党や新会派結成騒ぎ、同僚議員の「さきがけ」(当時)への大量の合流、さらには新進党の結党・解党を見てきた私には、また同じことが繰り返されていると思えて仕方がない。歴史に学ばなければならない。
いずれにしても、鳩山代表の辞任は避けられない。あとは、新代表をどの様に選任するかに議論は移り、閉会日の13日までに一定の結論は出ると思う。
参議院厚労委員会は、まだまだ法案が残されている。議員の原点を忘れず、持ち場をしっかり守って頑張ろう。
12月8日(日)号
12月に入り、新聞は早くも「今年の10大ニュース」を掲載。国会も会期末まで1週間。鳩山代表の辞任表明を受けての新代表選出と、何もかもが慌しく動いています。
鳩山代表、辞任表明
鳩山代表が自由党との統一会派結成や、新党構想を打ち出し、辞任へと発展した。先週のメルマガで書いた通りの動きとなった。10日に、新代表選出の運びとなる。
誰かから吹きこまれた話に乗ったのだろうか。新会派や新党の結成話が、騒動を引き起こさないはずがない。鳩山代表は自ら躓いたのだが、小泉総理は「選ばれたばかりなのに、皆で引き摺り下ろして」と、内紛を思わせるコメントをうまくするものである。さすがにテレビ時代の政治家と感心した。
拉致被害者支援法、成立へ
北朝鮮による拉致被害者の支援法案は、内容からして、内閣委員会か外務委員会の所管法案と思うのだが、なぜか、厚労委員会で審議されることになった。
12月3日の厚労委員会で、同僚の浅尾議員が鋭く問題点を指摘する。「法案に、北朝鮮当局による未曾有の国家的犯罪とあるが、日朝交渉で北朝鮮側は、一部の妄動主義者の行動といったことと整合性がない。政府は国家的犯罪と考えているのか」との質問に、安倍官房副長官は明確な答弁を避け、「法案は、議員の皆さんが作られたので」と逃げる。でも、法案の取りまとめは、政府が各省庁に指示して行ったのではないのか。
浅尾議員は「(国権の最高機関である)国会が、国家的犯罪との意思を示したのだから、政府も従うべきだ。犯人として、金総書記の引き渡しも求めるべきだ」とたたみかけた。
政府は、被害者支援に要する費用を北朝鮮に請求しないと考えている。いづれにしても、拉致被害者への支援は必要だが、その内容は、日本国内における犯罪被害者への支援や、帰国した中国残留邦人への支援策と大きく異なり、説明がつかないものとなっている。
独行法人化法案、審議2時間ストップ
医薬品の開発・審査・安全対策・副作用被害者の救済を一体的に行う「医薬品医療機器総合機構」の創設を巡っての私の質問に、坂口厚労相は「私の考えを整理して、年末までにお示しする」と、胸の内を吐露。そこで、「法案が通ってしまってから、厚労相が考えを示されても意味がない。審議が終わるまでに、考えを整理されたい」と切り返し、審議が2時間ストップした。
医師でもあり、薬害ヤコブの裁判で被害者との和解を選んだ坂口厚労相だからこその答弁だったと思う。折から、発売されたばかりの抗がん剤で、副作用による死者が多数出ている。会期末をにらみながら、月曜日から、薬害の再発防止策の徹底と、副作用被害者への給付の充実を求めて、厚労省と折衝を行う。
国会活動ミニ報告
◆12月4日、日本動物実験代替法学会に招かれ、臓器移植法と研究用臓器の入手について意見を述べた。新薬開発には研究用に肝臓などの臓器が必要だが、外国からの輸入に頼っている。「医療への信頼が高まらない限り、移植や臓器の入手は進まないのではないか」
◆在外被爆者が被爆者援護法の適用を求めた訴訟で、大阪高裁は、「被爆者は、どこにいても被爆者」との認識を示した。当たり前のことが、ようやく認められた。法律に書いていないことをいいことに、勝手に法律を運用し、在外被爆者への給付を拒んできた厚労省は反省を。
◆次期年金改正に向けて、厚労省が試案を発表。保険料は20%を上限とする、人口や経済の変動に影響されないよう「自動安定装置」を組み込むなどが柱。年金改革の手本とされるスェーデンの改革案を、都合よくつまみ食いした印象がぬぐえない。
12月16日(日)号
先週、臨時国会は最終週を迎えた。だが、参院厚生労働委員会は、国立病院の独立行政法人化法案と、5日に法案採決を見送った医薬品医療機器総合機構法案の審議が残っている。他の委員会は早々と店じまいしているなかでの「奮闘」は、参議院議員総会で評価される。
菅代表、岡田幹事長らの新執行部発足
10日の両院議員総会で、両院の全国会議員183名による投票が行われ、菅代表、岡田幹事長らの新執行部を選出した。
菅104票、岡田79票の票差を意外視する人がいるが、私は至極当然の結果と感じる。最大の要因は、選挙を前にした衆議院議員が、岡田さんと菅さんのどちらが選挙に有利かと考えたからだと思う。
菅さんが早々と「菅代表―岡田幹事長」の人事構想を明らかにしたことも、勝因かも知れない。「岡田代表―菅幹事長」より、「座りが良い」と考えた人もいるだろう。岡田さんは、代表になったら誰を幹事長にするか、投票前に明らかにしても良かったのではないか。アメリカで大統領選挙候補者が、副大統領候補と一緒に戦うのが好例に思える。
枝野さんが政調会長に就任。枝野さんは、菅さん、岡田さんの両名を政調で補佐されたことがあるから、民主党の政策をまとめ上げるには最適の人事と思う。
「攻めが生ぬるい」と批判された後の菅執行部だし、菅さんの個人的な性格もある。さらに、衆院解散総選挙の日程が迫ってくるとなれば、国会での小泉政権との対決姿勢は、相当に激しいものとなるだろう。ましてや、小泉内閣の支持率が低下傾向を示している。ただし、「何でも反対」になったのでは、国民の支持が広がらない。この辺、難しい舵取りが求められる。私も与えられた持ち場で、全力で頑張ります。
医薬品医療機器総合法案で「委員会決議」
厚生省案の問題点は2点ある。第一点は、新機構「医薬品医療機器総合機構」に、研究振興、救済、安全対策、審査の4つの業務が併置されること。第二点は、その運営を製薬企業からの手数料や拠出金に依存し、職員も製薬企業から採用することである。
私は、厚生省は薬害エイズの反省から、薬務局(当時)を解体し、研究開発業務と安全対策業務を分離したのに、その教訓が今回まったく活かされていない。原案のままでは、安全性が後回しになって、薬害が多発しかねないと指摘。しっかりとした審議を求めた。
12月5日の質疑では、私の質問に、坂口大臣が「私の考えを年内に整理したい」と答弁したことから、私は「それまで、法案審議は控えるべき」と主張し、審議が2時間ストップ。当日に予定された採決を見送ったことは、先週の本メルマガでも書いた通りだ。
結局、1週間を経た12月12日の委員会審議の冒頭、約10分の長さで、大臣が「考え」を表明。委員席から、「これじゃ、法案の趣旨説明をやり直しているようなもの」と批判の声があがるほどの異例の展開となった。
さらに、私が質問で示した案を中心とした「委員会決議」を採択した。内容は、(1)製薬企業との癒着が生じないよう、人材の採用は慎重に行う、(2)研究開発業務は、新機構発足までに分離する、?薬害被害者など薬害防止のNPO代表などを加えた審議会を機構内に設置するなど。法案の「実質修正」である。
委員会で法案が採択された後、審議での重要な指摘事項をまとめて「附帯決議」にする。委員会での決議を受けて、大臣は「決議のご趣旨を尊重して、取り組んでまいります」と発言するのが普通。だが、今回の「委員会決議」は、政府に実現を約束させるものだから、もっと重い。大臣の「発言」も、しっかりしたものにして欲しいと注文。
それを受けて大臣は「新しい法人が、国民に信頼され、また、国民に安全と安心を提供することができる組織となるようにするため、決議のご趣旨を十分に受け止め、決議の実現に向けて、しっかりと取り組んでまいる所存でございます」と、これまた異例の発言内容となった。
参議院段階での法案審議で、ここまで押し返したが、法案には反対。「こんな内容の法案を出すことは許されない。本来なら出し直すべきだ」というのが理由。自民党席からは、「ここまで譲ったのに、反対か」と野次が飛んだ。
衆議院での審議段階で「法案内容が問題」と批判を繰り返していたマスコミは、極めて異例の展開となった参議院でのこうした経緯を、「法案が成立」としか報じないので、少し長めになったが、経緯を書き残した。
国会活動ミニ報告
◆ 在外被爆者の大阪高裁判決を受けて、国に上告断念を求めた。判決内容から判断して、私は、上告は困難と思う。問題は、被爆者援護法をどのように改正するかだろう。私は、極力、現行法が在外被爆者にも適用される方向で法制局とも検討し、試案にまとめている。
12月23日(月)号
「日本国内で受けていた被爆者援護法に基づく健康管理手当が、国外に出たからという理由で支給が打ち切られるのは、法律に違反する」として、在外被爆者が提訴していたが、12月5日、大阪高裁は国側敗訴の判決を言い渡した。
この判決以降、私や「在外被爆者に被爆者援護法の適用を求める超党派議連」のメンバーは、国会の厚労委員会などで、坂口厚労相に何度となく「上告断念」を求めたが、先週18日、やっと政府は上告しないことを決めた。長年、裁判を続けてこられた原告の郭さんや支援者の皆さんのご尽力に心より敬意を表する。
大阪高裁判決を極めて狭く解釈
高裁判決では極めて明確に、「国外に出た時は手当を支給しないのであれば、そのように法律に書いておくべきだ。そのような規定がないにも係わらず、国が法律を勝手に解釈して運用したことは誤り」とされたので、私は、上告は無理と思っていた。「いったん法律に従って手にした権利は、法律に規定がないかぎり、国は勝手に権利を奪うことはできない」。それは至極当たり前のことだからだ。
上告断念によって、日本に来て健康管理手当等を受けた人は、国外にいても3年あるいは5年間の受給期間中は、手当を受給できることになる。しかし国が、「日本に来ない人(来れない人)には受給権はない」と判決を狭く解釈して、手当等の支給対象を制限するのでは、問題の本質的な解決にはならない。私は17日、厚労省を訪ね、被爆者援護法を所管する健康局の局長や、担当課長に直談判した。
しかし彼らは、「日本に来られない被爆者を含む、すべての被爆者に手当等を支給せよという、先生のお申し出は判りました」と答えるに止まった。その姿勢からは、「上告はしないが、制度は限定的に運営する」との方針を固めていることがうかがわれた。むしろ、「今回の措置は、法律の人道的な側面によるものです。決して、国家補償や戦後補償とは関係しません」と、援護法の性格を念押しすることに余念がなかった。
その足で、私は厚労省の記者クラブを訪ねた。上告断念を、「勝った、勝った」のトーンで報道せず、「本質的な問題は未解決であることを、国民にアピールする記事を書いて欲しい」とお願いした。
被爆者援護法の改正が必要
18日、坂口大臣は記者会見で上告断念を発表。案の定、国の方針は限定的なもので、「法律改正もしない」との見解を示した。要するに、「被爆者援護法の解釈に相違があったが、今後は法律通りに運用する」という姿勢である。
「被爆者は、どこにいても被爆者」とは、国によれば、「日本に来れば被爆者だが、来ない人は被爆者ではない」という解釈だ。本来の意味での「被爆者は、どこにいても被爆者」とするためには、現行法の改正が必要となる。具体的には、(1)被爆者手帳は、在外公館でも申請できるようにすること、(2)健康診断等は、現在も日本から医師団等が派遣され行われているが、これを法定化すること、(3)各種の手当は、日本国内と同様に支給されること、(4)その他、海外における原爆症治療体制の整備などを進めることなどを盛り込んだ法改正が必要である。
民主党は、上記内容の改正案試案をまとめたが、原告や支援者との意見交換を踏まえて、上告断念の発表に合わせての公表は控えた。
国が大阪高裁判決を受けて、上告を断念したことは歓迎できる。しかし一方で、在外被爆者全体に援護法を適用することは、かなりの難問であることが、浮き彫りされることにもなった。
国会活動ミニ報告
在外被爆者の問題や、障害者の投票権が保障されていない問題など、当事者が裁判に訴えて権利を確保しようとする流れがある。判決では、違憲との判断が示されたり、法律の不備が指摘されたりする。立法不作為も指摘され、国会議員の責任の重さを痛感する。
大阪府茨木市の知的障害者が在宅投票の実現を求めていた裁判で、大阪地裁は、12月20日に予定していた判決期日を1ヶ月延期した。難病患者が同様に訴えていた訴訟で、違憲との判断が示されたことを受けて、判決文を書き直すのだろうか。来春の統一自治体選挙には間にあわないかもしれないが、早急に障害者の在宅投票制度を整備すべきだ(巡回投票制度など)。民主党は対策チームを編成した。対応策を早急にまとめたい。
12月29日(月)号
24日、03年度予算の政府案が閣議決定された。総額は81兆7891億円だが、一般歳出は47兆5922億円に止まり、国債依存度は過去最悪の44.6%にもなる。景気対策からの減税も行われるが、歳出の徹底した見直しとともに、再来年度以降の増税は避けられない。
といっても、選挙を前にしての政治は増税に及び腰。ならばと、厚生労働省の官僚は、自前での財源確保に走り出したようだ。
今朝の朝日新聞は1面で、現在は40歳以上が負担している介護保険料を、20歳から負担してもらうことを厚労省が計画していると報じた。介護保険導入時に、「なぜ、社会保険として介護保険を創設するのか」との問いに、当時の厚生省の担当者は、「負担と給付の関係が明確だから」と説明した。それに対して、野党第一党の新進党で政調会長だった野田毅代議士は、「40歳から65歳の人は、保険料を負担しても、給付を受けられるのは、加齢に伴う疾病等によって介護を必要とした場合に限られている。それなのに負担を求めるとすれば、それは保険料ではない。税金だ。税財源で介護に必要な経費をまかなうべきだ」と主張して、介護保険に反対の姿勢を崩さなかった(その野田代議士も、自民党入りをするそうだ)。
厚労省は、介護を必要とする障害者も介護保険の対象とすることを検討してきたはずだ。だが報道の通りであれば、障害者は介護保険の対象とはされない。とすれば、保険料負担者の拡大は、単なる財政対策でしかない。厚労省は、またもや「理念なき財政対策のための負担増」を繰り返そうとするのだろうか。
本年の「蝸牛のつぶやき」は、今号をもって終わります。ご愛読ありとうございました。来年も、現実を冷静に見つめ、将来を展望できる政策づくりに取り組みます。ご指導をお願いします。
どうぞ良いお年をお迎えください。