生保見直しについての厚労省の見解、加給年金の過払い・未払い問題、HIV感染拡大への認識 等(議事録)

参議院

2003年7月17日 厚生労働委員会で質問(議事録)

※参院記録部が作成した「未定稿」ともとに、趣旨を変えない範囲で修文しています。

生活保護の見直しについて

山本孝史君

 来年度の予算編成で社会保障関係の経費は2000億円カットだというような数字が先に出てきているが、財政再建や、予算編成上の理由を先に持ってきて社会保障をカットするというのは本末転倒。
また、社会保障審議会に専門委員会を設置して、最低生活費の引下げも視野に生活保護制度の抜本的な見直しに乗り出すとの報道があった。厚労大臣は、生活保護について今後どのように考えていかれるのか。

坂口力厚労大臣

 生活保護の問題については、社会保障審議会の福祉部会で、これから議論を始める。
生活保護受給者は、もちろん経済的に行き詰まった皆さんだが、その背後には、健康を害された皆さんを始めとして、様々な問題が存在している。
 したがって、生活保護受給者に対しては、そうした背後にある問題に、よく相談に乗せていただいて、そしてでき得る限り雇用の場に就いていただけるように努力をするというのが一番大事だ。そして、全体として、生活保護受給者が少しでも少なくなっていくことができればいいなと思っている。
 そうしたことを抜きにして、財政上の問題だけで、ただ生活保護を受ける人が増えてきたからということだけで一人一人の生活保護の額を少なくしていくということは、それは乱暴な話で、私は、それは受け入れるつもりはない。そこは明確にしておきたい。
ただ、生活保護受給者の中で、例えば年齢によって多少格差があったり、これはどうも少しおかしいのではないかというような御指摘を受けていたりする点については、これから検討をしていきたい。だが、そうした背後に潜むもの、なぜ増えるか、なぜ受給者になっているかという背後に潜むものをやはり解決をしていくことが我々に課せられた大きな課題であると思っている。

山本孝史君

 生活保護費は二兆円近い金額になっていて、毎年、当初予算で全額の手当てができず、常に補正予算で、その年度に必要な金額のほぼ二割前後を追加的に支出している。
 財務省の予算執行調査でも、生活保護の適正化、見直しという表現で、基準を下げるべきだと言われているが、生活保護基準の見直しは、国としてはもう社会保障はしないと言っているのと同じだ。
 社会保障審議会の委員会での議論は、いつごろまでのめどで進められるのか。またその結果に基づいて、来年度の予算編成に何らかの反映をするという考えか。

河村・社会援護局長

 委員会では、まずは保護基準の在り方等について議論をお願いしたい。現時点で来年度予算に反映する可能性を否定しているわけではないが、議員御指摘のように、十分な議論が行われるということが重要であると考えており、そのような運営に努めてまいりたい。ある程度の期間、数か月というようなレベルのものではない。

山本孝史君

 生活扶助基準は、昭和58年12月の中央社会福祉審議会で、当時の生活扶助基準は、一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達していると評価した上で、様々な議論があって、それが妥当であるという中で、消費支出で一般世帯の70%弱という水準に置いてきた。この基準も見直しの対象とする考えか。

河村・社会援護局長

 議論の際には、現行の基準の妥当性についても検証をすることになる。

坂口力厚労大臣

 無年金障害者のときにも申し上げたが、その皆さん方に何ら手を差し伸べずに置いておくと、これはほとんどの人が生活保護になってしまう。ですから、若い間に手を差し伸べるべきことは差し伸べて、そして仕事をできるようにしていただくというふうにすることは、生活保護になる人を増やさないという意味からも大変大事なことだ。
 7割とは別に決まっているわけでは決してない。結果として大体7割弱になっている。高度経済成長のときに決めた7割というのを、今後も維持することが妥当かどうか。非常に一般の世帯ですら厳しい状況になってきている中で、さらに、その7割というと、本当に維持できるのかどうかということもあり、決して下げるという意味ではなくて、そうしたことは、全体に考えていくということは大変大事なことだと思っている。

国民年金の収納率低下について

山本孝史君

 国民年金の収納率が平成13年度に70.9%にまで落ち込んだ。福岡市では平成14年度の収納率は前年比で10.5%落ち込んだ。平成14年度の全国での収納率は、どの程度になると見ているのか。

磯部・社会保険庁運営部長

平成14年度の国民年金の納付率は、極めて厳しい状況にあると認識しているが、要因分析や今後の収納対策も含めて現在取りまとめ中で、まとまり次第早急に公表したい。

国民年金保険料を定額制から報酬比例とすることについて

山本孝史君

 8月末には、年金改正の大臣私案をお出しになると聞いているが、国民年金の空洞化というのか、収納率が大幅に低下している問題は、年金改正を考えるときの一つの大きな判断材料だ。できるだけ早くデータを出していただきたい。
 国民年金は自営業者のための年金だと、みんな思っているが、第一号被保険者(国民年金加入者)の就業状況の構成割合は、自営業者が22.6%、その家族の従業者が11.3%、被用者だが、パートタイマーなどで社会保険の適用がない者が26.4%、無職が34.9%だ。したがって、非常に逆進性が高い定額制の保険料になっているが、国民年金も所得比例で保険料を納めることが可能ではないか。そういう方策について、大臣の考えは如何に。

坂口力厚労大臣

 いわゆるスウェーデン方式と言われるような、所得比例を導入していくということが有力な方法の一つと私も位置付けている。
しかし、国民年金加入者の所得捕捉というものが十分にできるかどうかについて、なかなか決着が付いていないと思っている。 そこがうまくいくかなということが一つの大きな問題点だと思う。以前のことを比べると自営業者の割合が下がってきていることも事実。そうしたことも十分念頭に置きながら今後の年金制度というのを考えていかなければならない。

山本孝史君

 社会保険の適用拡大ということも含めて考えれば、国民年金の対象者というものをもう一遍考え直す、あるいは所得比例にした方がいいのではないか。国民健康保険は所得が低くても応益応能で負担している、介護保険は生活保護を受けていても保険料を負担するということになっている。ところが、国民年金については、所得が一定あるにもかかわらず免除される。同じ社会保険制度でありながら、保険料の掛け方が全く違うのはなぜか。

吉武・年金局長

全額免除は、夫婦子供二人世帯で所得金額が164万円以下の方について申請によって免除をするという仕組みだが、追納という手段も用意をして、所得の変動が起きたときに、御自分の判断も加味をして、免除によりその間の保険料の負担をしないという道を用意するという形で、もちろん、その申請免除の対象になっている中にも保険料負担している方は相当数おられる。
それから、仮に所得を把握しても、自営業のうちのいわゆる事業所得を、課税所得を持っている方が1050万人のうちの約200万人と言われており、この人たちの所得総額はそんなに大きくない可能性がある。そういう中で、どういうふうにして考えていくかというのが給付との関連であって、定額の保険料という仕組みを取っている。

山本孝史君

 厚生年金の保険料も、介護保険料と健康保険料とを分離して取っているのと同じように、いわゆる二階の報酬比例に当たる部分と基礎年金に当たる部分を分離して取った方がいい。そうすると、基礎年金としてどれだけのものを自分たちは払っているのだという負担と給付の関係がよく分かる。
 国民年金も13300円の定額負担をしているが、13300円以上に払える自営業者の人たちが一杯いるにもかかわらず、その人たちは何ら負担しなくていいのに、被用者年金の方では非常に高い負担をしなければいけない。このことは、年金制度に対する不信を高めている原因の一つだと思う。
 国民年金を本当に所得比例にできないのかどうか。もう一度きっちりと議論をし直した方が、理解が得やすいのではないかと思う。

世代間格差の是正度合について

山本孝史君

 若い人たちは年金に対して不信を持っている、イコール政治に対して不信を持っている。世代間格差が今度の厚生省の案によってどのように変わるのか、国民にその姿を見せるべきだ。
 必ず払っているもの以上に戻ってくる云々の話は、これから先の人口構造等を考えると、戻ってくる率が悪くなることは当然のことであって、そこはみんなで一生懸命説明をしなければいけないが、その前提になる世代間格差の是正がどの程度進むのかという数字について、年金局からなかなか出していただけない。これはやはり出していただきたい。

吉武・年金局長

 平成11年の財政再計算のときに、今先生がおっしゃったような数字を出させていただいた。ただ、その数字だけが独り歩きをしてしまうという可能性がある。11年でお出しした数字は、非常に分かりやすくするために、将来の給付を11年度の価格に戻した。そうすると、ずっと将来の世代ほど割引をするので、11年度の価格では小さくなってしまうという問題がある。それからもう一つ、これは機会費用という考えを持って、いわゆる積立金の運用利子率で割戻ししたり、保険料を増やすというような仕組みを取っている。
 もちろん先生おっしゃるとおり、世代間格差という議論に対して私どもなりに説明をしていくことは非常に大事だと思っているが、同時に、これは例えば今の年金受給者の方が、例えば昭和20年代は厚生年金の保険料率は3%だったが、これは、戦前は実は10%払っていただいたものを、戦後の復興ということで、保険料率を凍結どころか下げて、そのことによって負担を軽減したという経緯がある。
 こういうことについても、やはり若い世代の方にも分かっていただくように、そういう歴史的な背景なり経済発展の歴史を踏まえながら御説明する必要があると思っていて、先生の御指摘は非常に大事な点だと思っておりますが、私どもの方も、よくこの点については議論をし、世代間格差の問題については御説明をしていきたいと考えている。

山本孝史君

 年金というものについてやっぱりちゃんとデータを厚労省は出して、それによってみんながどう判断するかという、その前提としての資料だ。その説明が非常に難しい、あるいはその説明にいろんなことを付けなければいけない、誤解を招くというが、誤解を招くのは説明の仕方が悪いのだ。
 出してくださいと言っている資料を出さないというふうに言われると、我々、議論のしようがない。それで年金改正をどうやって来年やるのかという話になるので、ここはやっぱり、その他のいろんな資料もみんな出していただく。資料を出すということについて、大臣にお聞きしたい。

坂口力厚労大臣

 来年の国会は、年金で大議論をしていただかなければならない。医療、介護、あるいは労働問題以上に、この年金問題というのは、今後の20年先、30年先あるいは50年先の計算をどうするか、どういう前提の下に数字を出すかというところにもう集約されてくる。もちろん、どういう形の年金制度にするかということもあるが、そこに集約されてくる。だから、前提が違ったら全然話は違ってくるわけだから、どういう前提の下にこの数字を出すかということが大事であって、その前提と、そして前提を明確にした上での数字、これはちゃんと出すようにいたします。これは責任を持って出すようにいたします。
 それともう一つは、若い人たちにどう説得をしていくかということだと思う。若い人たちは、今の高齢者と自分たち、若い自分たちとの間の比較をされるけれども、若い人たちの間で、年金に掛金をなさる方と、年金はやめて、やめるというのは本当はいかぬわけですけれども、中には年金をやめてもう預貯金をされるという方とあるわけで、それは同じようにやったら一体どれだけ違ってくるかということ、これも明確にしていかないといけないと思っている。
 それは半分出すんですから、これから国が、だからそれは私はプラスに違いないと思うんですけれども、そこのところがなかなか理解をしていただいていないというふうに思っていて、そうした問題も含めて、私は明らかにしていく。だから、数字を出すときには必ず、前提としてこういう前提の上に計算をしたということを明確にする。これはもう一番大事なことでございますので、そういうふうにしたいと思っております。

山本孝史君

 前提の置き方といえば、厚生省からもらう資料をもとに、積立金の運用利回りが4%で計算をしていると言った途端に、現状に合っていない話で、おまえ、そんなこと聞いたって話になるかと、こう怒られる。いろんな試算はできると思う。やっぱりいろいろ試算をやってみて、どうなんだということの理解が深まるのだろうと思う。

加給年金の過払い、未払い問題

山本孝史君

 年金不信を生み出している事件になっているなと思っているのは、加給年金の過払いと未払が大変大きいという問題だ。実態はどうなっているのか。

磯部・社会保険庁運営部長

加給年金の過払は、平均額は約38万円で、最高額は119万3816円。振替加算の未払は、7月11日時点で検討中のものだが、平均額は約75万円、最高額は273万7066円となっている。この数字は、最終的には8月下旬に確定する。

山本孝史君

 社会保険庁のミスで、一番大きい人で273万円の年金をもらえずにきた。この未払金について、利息は付けないと報道されている。それで、そんなことはあるのかと思い、国税庁に、もし税務署が指導を間違えて余分にもらってしまった、あるいは足りなかったときは国税庁はどうするのかと聞いたら、税金はちゃんと通則法があって、税務署の窓口が指導を間違えて余分にもらってしまったものを返すときはちゃんと利息を付けて返す、足りなかったときには延滞税は取りませんという規定が整備されている。
大変だと思うのは、突如として270万円の年金をもらうわけだが、そうすると、それに対して所得税等々が掛かってくる。介護保険であれ国民健康保険であれ、その所得に応じて負担基準が決まっているから、過去の分で考えると、適正な負担になっていなかった、払わなきゃいけないのに払わなくて済んだ、あるいは払わなくてもよかったのに多分に払ってしまったという状態がずうっとこの人たちは十年近く続いていたはずだ。そのことについてどうするのか。
 それから、今年突如として収入が増えるけれども、それは例年でいただいていればこれだけのものとして税金等々払えばいいはずなのに、一遍にそれだけのものをもらってたくさんの所得税を払わなければいけなくなるというのは、社会保険庁のミスを結局受給者の側に全部ツケ回しをするということになるのではないか。適正な措置をすべきだ。

磯部・社会保険庁運営部長

 まず、利子の件だが、現在の年金関係法令では、年金に係る未払金に対して利子を付すということとはされておりません。
これまでも、本人からの届出の遅れ等によって未払あるいは過払いが生じた場合もございますが、利子を付しての追加払いや、あるいは返納を求めるということはしておりませんので、今回、御迷惑をお掛けした方々に対しましても同様の取扱いとせざるを得ないと考えています。
それから、それに基づく国民保険料や、あるいは介護保険料など、所得への変動ですが、御指摘のとおり、そうしたことが生じる可能性があると考えております。
 それにつきまして、税の方での更正決定等の規定もあるようでございますが、いずれにいたしましても、社会保険庁として、できるだけそうした影響が少なくなるような方途について今後検討していきたいと考えています。

山本孝史君

 私は、ミスはあると思う。その時に、法律がこうなっているからできませんというのではなくて、できるように法律を変えればいい。そういうことなのではないか。
 だから、自分たちが間違ったことを、国民にそツケ回しをすることはおかしいし、自分の年金は正しいんだろうかと、あの新聞記事を見て思った人たちは一杯いると思う。その意味でも、ちゃんとした対応をしますということでなければ、何か間違いがあったときに常に社会保険庁は謝るだけだというのではやっぱり国民は納得しないのではないか。大臣、適切な対応を考えていただきたい。

坂口力厚労大臣

 いずれにいたしましても、この年金受給者の皆さん方に過払い、あるいはまた未払が起こっていたということは、誠にこれはもう申し訳ない話であり、心からおわびを申し上げなければならない。
社会保険庁としても、一番中心の仕事を間違っていては話になりませんので、これは厳しくこの中の見直し、なぜそういうことが起こったのかということを徹底的に今言っているところで、内部の見直しを行っているところでございます。それ相応の責任も取らせたいというふうに思っています。
 確かに、こちらのミスで遅れたんだから、それに対して利息を付けたらどうだという、お話としては分かるわけですが、そこのところをどうするかというのはなかなか難しい話で、先ほど答弁しましたように、法律上はないというようなことの現状でございますし、あるいはまた、一度にもらえばどんとそれで税金が掛かるということも確かにそれはあるわけでございますが、その辺のところの処理どうするか、ちょっと内部でも考えさせてください。

山本孝史君

 税制の議論、いろいろなところとの議論があると思いますけれども、しっかりと議論をしていただきたい。
人為的なミス、これはプログラム上のミスでしょうけれども、人為的なミスは起こりますので、そういったときにどう対応するかということは考えておくべきだと思う。
 それと、根本的には、こんな複雑な制度をやっているからミスが起きるのだと思う。そういう意味でも、年金制度はシンプルであった方がいい。

HIV感染拡大と対応策の充実について

山本孝史君

 HIVの感染の拡大の問題について、残りの時間少しお聞かせをいただきたい。
 かなり感染者が拡大をしてきているのではないか。今どんな実態にあるという認識をしているのか。

高原・健康局長

 我が国のHIV感染者及びエイズ患者の動向は、感染症法に基づく感染症発生動向調査事業において把握している。
平成14年は、HIV感染者614名、エイズ患者308人の報告がなされ、男性同性間を中心とした性的接触によるものが拡大しつつあると報告されている。HIV感染者、エイズ患者とも依然として増加傾向にあり、今後の予断を許さない状況であると考えている。
 さらに、HIV社会疫学研究班において我が国のHIV感染者、エイズ患者数の推計を行うとともに、同性愛の方、性感染症の罹患者、妊婦、薬物常習者等の集団ごとのHIV感染状況調査や行動調査等を補完的に実施している。今後ともエイズ対策の基礎となるこれらの疫学調査を着実に進めてまいりたい。

山本孝史君

 今お触れになりました研究班の調査では、3年後には感染者2万2千人、エイズを発症した患者は5千人に達するのではないかというような数字だが、状況はどんなふうに把握しておられるのか。

高原・健康局長

 これはあくまでも推計で、そのとおりになるかどうかということは予断の限りではない。
 しかしながら、私どもとしては、今年の報告の文言は、緩やかな増加傾向という表現になっているが、どこで急激に上がるやら分からない。それに対する対応は十分やっておかなければならないなと考えている。

山本孝史君

 厚生省がお金を出して研究をしていただいた報告だが、それは予測数値であって余り当てにならない数値ですというように、今の局長の御答弁は聞こえたが、かなりの勢いで若い人たちの間に増えてきているのではないか。
 医師がちゃんとしたインフォームド・コンセントをするということに腰が引けておられるのか、その結果として、なかなかHIV感染の状況も見えてこないのかと思う。
 と申し上げますのも、母子感染を防ぐために妊婦さんにHIV検査を行うべきだと思うが、研究班の調査では、関東・甲信越では96%の検査率だが、近畿に行きますと79%、中国・四国64%、九州・沖縄52%と、大変に地域間格差が大きい。
ハイリスクグループが診察に訪れると思われる性感染症クリニックでも、HIV検査の実施率は低い。検査をしても感染者数は少ないだろうからというのか、あるいは、エイズの検査は五千円から八千円ぐらい掛かるので、それだけの自己負担を患者さんに求めるのはどうかと思うと。だから、性感染症の治療で来られているのだけれども、その方にわざわざエイズの検査を受けてみてはどうですかとインフォームすることもはばかられるし、しかし、自己負担も掛かるから云々という話の中で、結局、一番のハイリスクグループである人たちに対してしっかりとした対応、必要な施策が講じられないでいるのではないかと思う。
そういう意味で、医療機関で手術のとき、あるいは妊産婦さん、あるいは性感染症クリニックに来られるような方たちにHIVの検査を受けられるように、保険適用も含めて対応すべきだと思う。

高原・健康局長

 分娩それ自身はそもそも保険の外の話だし、もちろん、ハイリスクといった場合、どの程度のリスクが想定されるかという問題もあり、全く想定されない場合に保険適用というのは、なかなか難しいだろう。
 したがいまして、保健所において無料で、これは名前も登録する必要もなく、またポジティブに出た場合、陽性に出た場合のカウンセリング等も研修させている。
 医療機関においても、これは大変御面倒なことだとは思いますが、もし、あなたはやはり受けた方がいいんじゃないか、うちで受けるとお金が掛かるけれども、もしプライバシーを重んじて受けるということであれば、こういうところで受けられるよということは、一部の医師会の方ではやっていただいているが、こういったことを全国的にもお願いしてまいりたいと。ちょっとそれ以上の知恵はないわけでございますが、そういうふうな形で実態的に検診を受けていただくようにお願いするというふうに考えておる次第です。

山本孝史君

 そうでしょうけれども、やっぱり国全体として治療体制を整えていく、治療の前にまず検査体制ですけれども、検査を受けていただくということが、受けやすいという状態を国の方として作りませんと、なかなか進まない。
 妊婦さんに対するHIVの検査に非常に地域間格差がある。そう申し上げた中で思うのは、多分、地域ごとのいわゆるエイズ拠点病院として治療体制を取っていただいて、拠点病院は、治療だけじゃなくて、その地域における医療機関に対する指導とかスタッフの研修等も担っているわけだが、そういった中で地域間格差が出てくるというのは、多分、西に行くほどそういった体制に対しての取組ができていないというか、できない状態が多分あるのじゃないか。
 そういう中で、国立の大阪病院が関西ブロックにおけるところの唯一のエイズ拠点病院に指定をされている。坂口大臣も視察をいただいた。患者さんからいつもお話を聞くのに、エイズ患者さんの専門の治療をするスタッフの数が少ないということだ。拠点病院だからやはり皆さんそこを頼って来られる。そこの、ある意味ではブロックの拠点病院の山が高ければそのすそ野も全体が上がってくると思いますけれども、そういう状況になっていない。東京にあるところのエイズ治療の研究開発センターには千人ぐらいの受診者がおられる。国立大阪病院で五百人ぐらいの受診者がおられる。スタッフの数はというと、大阪はその三分の一ぐらいしか持っていない。スタッフの定員制があってなかなか難しいのかもしれないが、やはり拠点病院としての機能を充実していくという方向で取組をしていただきたい。

坂口力厚労大臣

 今年の三月でしたか、HIV原告団の皆さん方とお話合いをしましたときにもその話が出まして、増やすという約束だったけれどもなかなか増えないではないかという話がございました。
 中でいろいろお話をしまして、そちらの方に医師が派遣されるようにある程度増員できたと私は聞いております。十分かどうかは分かりませんけれども、今までのことを思いますと、そこに増員もできたというように理解をしておりますが、今後も、そうは言いますものの、まだ患者さんも増えていく可能性もあるわけですから、十分対応のできるように心掛けていきたいと思っております。

日赤献血での感染血液のすり抜け問題

山本孝史君

 きちっとした対応を是非お願いをします。
 関連して、日赤の献血の問題でお聞きをします。ここ二、三日の新聞で、日赤の献血で、一次検査、二次検査をする中で最終的にHIVに感染をしていた血液が素通りをしてしまった。献血をする中でHIVの検査をしてもらおうと思っている不らちな人たちがいることも事実で、そういう意味でいけば、日赤の献血が、残念だが、HIVないし肝炎に汚染をされているということは今後ともに一定の割合で起こりうる。残念だが、防ぎ切れないという、リスクとしてみんなが持たなければいけないという状況になっている。
 でも、やれることはある。一つは、日赤が、汚染をしていることが分かったときに遡及調査をして回収できるものは回収をする、あるいはそれが使われた先には連絡をして、早急に検査を受けていただく。肝炎対策の中でずっとこの話をしてきましたけれども、やっぱりそれをしっかりとやっていただきたい。自己血で輸血をする、あるいは手術のときにできるだけ輸血を使わないでいいような、そういった手術の方策も考えていただくということも必要だ。
 それから、血液製剤の適正化の問題については、血液事業法の議論の中で指摘したが、病院に、とりわけ大学病院に輸血部をきっちりと置いてほしい。今、国立大学の独法化の中で、大学病院の経営合理化ばかりが言われるなかで、検査は全部外へ出してしまえ、輸血部などというのは要らない、薬剤は全部外でいいじゃないかという話で、本当に大学病院という、研究をするところであると同時に、学生さんの教育をする現場で、輸血とかあるいは薬の使われ方というものについて、非常におざなりになってきている。経営が先に立ってしまっていて本当にいいのだろうかと思う。そういう意味で、やはり輸血部というものをしっかり置いて、輸血の専門医を置いて血液製剤の使い方についての適正化も進めるというのは、血液事業法を審議したときのお約束であったはずで、そういった対応もしっかりやっていただきたい。
 血液製剤にかかわる問題について、大臣としての御認識、そして今後の取組みの方向等についてお考えがありましたらお聞かせをいただきたい。

坂口力厚労大臣

 赤十字で、今までは遡及調査をやっていた。ところが、いわゆるNAT検査という非常に優れた検査を導入してから、これに過信をし過ぎたと申しますか、これならもう100%近く大丈夫だというので遡及の調査をやめてしまっていたというところに問題がある。
 厚生労働省は、今までどおりやってくれているものだと思っていたわけで、そこが申し訳なかったと思っております。それで、遡及調査をちゃんとやるということにした。
 普通は一か月以上置いて献血しなきゃならないのに、なぜ二週間で献血したのかということもよく分からないわけですが、多分そういう危険性もあって御本人としてはされたという可能性もないとは言えない。そうしたことをこれから十分に注意をして、信頼される保存血液ができるように最大の努力をしていきたい。
それから、大学の方のいわゆる輸血にかかわります部分については、これは文部科学省にも何度かお願いをいたしており、独法化をされたらそうした輸血部がなくなるというようなことのないように、是非御配慮をいただきたいということを申し上げているところでございます。

山本孝史君

 これから先、大変増えていくということで、別に私は危ない危ないと言っているわけではありません。治療法が大変に進んできていて、性行為をしても感染しない、ちゃんとウイルスの数が抑えられるというところまで治療が進んできているので、できるだけ早く治療を受けていただくことが重要だし、みんながこれで危ないとか危険だとかという思いを持つ必要性は何らないということは強調しておかなければいけないと思っています。
 その意味で、私は若い人たちに、しっかりとした性教育をすべきだと考える。一部の方たちが、そういうことをするとかえって、性行為に走るので駄目だとおっしゃるけれども、これもちゃんとした調査をやればいいと思う。性教育をした結果として、その学校で性行為が非常に広まっているのかといえば、そうではないということも言われているわけだから、そうした中で、人間としての在り方、あるいは性というものの扱われ方、そしてまた、エイズというものに対しての、みんなで向き合っていくという姿勢をしっかり作っていくということも大変重要だと思う。日本の伝統の美風云々というような話ではなくて、もっとちゃんと地に足の付いた議論をしていくべきだ。
 時間になりましたので、終わります。ありがとうございました。