もう治療法がない……それは保険範囲内のこと(議事録・質問要旨)
参議院
2006年11月2日 厚生労働委員会で質問
いじめ自殺の報道のあり方、石綿健康被害者の中皮腫治療薬・アリムタ購入費について、臓器移植問題、社保庁改革案の取り扱い、がん治療薬の保険外適用について質問しました。
議事録
山本孝史君
民主党・新緑風会、山本孝史でございます。
今日は、櫻井、津田両理事に御配慮いただいてお時間をいただき、一時間質問をさせていただきます。せきをしておりますのは風邪を引いているわけではありませんので、どうぞ御心配なく。
本題に入ります前に、二つほど質問させていただきたいと思います。
一つは、先ほど西島先生お触れになりましたいじめ自殺の問題でございます。
この自殺問題については、今日は公務で御出張中だそうでございますけれども、武見副大臣が与党の筆頭理事でおられましたときに御一緒に取組をさせていただきまして、昨年二月の衆議院の予算委員会を開いているときに、参議院がまあ開店休業中もどうかなというようなことで、極めて異例でしたけれどもこの委員会を開かせていただいて、自殺問題に取り組む専門家を招いての参考人質疑を行わせていただきました。また七月には、本委員会で、自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議を採択をし、自殺は社会問題なんだという認識を示させていただきました。政府も関係省庁連絡会議をその後設置をしていただきました。さきの通常国会では自殺対策基本法が成立をいたしまして、これも内閣委員会で可決をしていただくという大変高いハードルを武見理事に越えていただいて、厚生労働委員会の皆さんにも大変御理解、御協力をいただきましたし、また、尾辻元厚生労働大臣にも大変大きなお力添えをいただきました。
そういう積み重ねの中で、この十月一日に国立精神・神経センターに自殺予防総合対策センターが開設をされまして、この法律も十月二十八日に施行となりまして、内閣府の自殺対策推進準備室と言っておりましたところから準備の二文字が取れて、本格的に自殺対策推進室ということで動き始めましたと、本格的にというふうに言いたいのですが、非常に動きが残念ながら鈍いというのが私の受け止めでございます。
連日、いじめ自殺が報道されております。命の大切さを教えて、そして生きる力をはぐくむこの学校の現場で先生や生徒の自殺が続くと。いじめ自殺というのは、子供たちを被害者にするだけでなく加害者にもしてしまうという大変に厳しい面を持っております。日本社会の縮図が学校現場にそのまま表れているというふうに私どもは受け止めておりまして、昨日のTBSのニュース23でもやっておりましたけれども、やはりこれは群発地震と同じように群発自殺なんだと。犯人捜しをしているマスコミの報道がこの自殺をずっと続けさせている、引き起こしているというふうに受け止めております。
この点、WHO、世界保健機構が出しております自殺事例報道に関するガイドラインというのがありまして、それによれば、避けるべきこととして、一つ、写真や遺書を公表しない、二、自殺手段の詳細を報道しない、三、自殺の理由を単純化して報道しないということが挙げられております。と同時に、自殺という手段を選ぶ前に親や学校の先生以外にも相談するところがあるんだと。人権相談あるいはいのちの電話、様々なものがありますよということを子供たちに紹介することが大切なんだというふうにガイドラインでは述べております。
今日は、内閣府から柴田政策統括官に来ていただきました。法律を作るときに、どこにヘッドを置こうかというので、厚生労働省ではこれはやはりうつ病対策に特化されてしまう。社会問題なんだから是非内閣全体で取組をしてほしいという思いで苦労して内閣府に置いていただいた。そこに室ができた。それは、省庁を挙げて、省の垣根を越えてやってくださいということを申し上げているわけですけれども、どうもそんなふうになっていないんです。
安倍内閣として、是非マスコミ各社にWHOガイドラインに基づいて報道することを要請をしていただきたい。先ほど文科省からも来られていましたけれども、学校で子供が自殺をしたときにどういうふうに対処したらいいのかということについてのマニュアルを是非専門家を含めて作成をして、先生方によく理解をしていただくということが大変重要だというふうに思っております。
内閣委員会で法案が成立しますときに、官房長官として安倍総理が、当時は官房長官でございました、出ていただきまして、この問題についてはしっかり取り組みますというお言葉もいただいております。今はその方が総理大臣になっているんです。是非ともに、このいじめ自殺問題のみならず、自殺問題全体に対して政府を挙げて取組をしていただきたいということで柴田さんから御答弁をいただきたいと思います。
政府参考人(柴田雅人君)
ただいま山本先生からかなり詳細な御紹介がありました。若干ダブるかもしれません。
まず、議員立法で成立いたしました自殺対策基本法でございますけれども、二十八日に施行されました。これに基づきまして政府を挙げて取り組もうということで、これからスタートをしていくところでございます。
先生が今御指摘ございました平成十二年のWHOの自殺対策のガイドラインでございますけれども、ここでは、マスメディアの報道について、自殺予防に十分寄与する可能性があるという反面、センセーショナルな報道にいろいろ影響を受けると、若者に影響を与えると、複数の自殺を誘発する危険があるということが指摘をされているところであります。
今、先生からも御紹介ありましたけれども、最後に、このガイドラインでは、すべきこと、それから、してはならないことというのでまとめておりまして、先生御紹介あったのは省略しますけれども、特に、してはならないところのことで申し上げますと、遺体とか遺書の写真を掲載するとか、自殺方法を詳しく報道するとか、単純化した原因を報道するとか、あるいは自殺を美化したりセンセーショナルに報道するとか、あるいは宗教的、文化的な固定観念を当てはめる、あるいは自殺を非難する、こういうのはしてはならないというようなことでガイドラインを示しておるところでございます。
どういう報道をするかということにつきましては、これはマスコミ各社が基本的には自主的に判断するものだというふうに考えておりますけれども、そして現在、自殺の報道をされるに当たってはいろんなことを御配慮いただきながらやっているものと思いますけれども、やはりこの自殺予防対策を進める上でマスコミ各社の協力というのは不可欠だというふうに私どもも考えております。
WHOのガイドラインにおきましては、今回、先ほど先生お話ございました国立精神衛生センターに、ある意味では実態の解明と、それから自殺予防の情報センターという意味で自殺予防総合センターというのができましたけれども、ここのホームページにも、このWHOのガイドラインにつきまして、私どもとして、このセンターとして掲載しているところでございまして、マスコミ各社におかれましては、これを、このガイドラインを見ていただきまして、これを参考に更にいろんな報道の仕方ということについて御検討をいただきたいというふうに私どもも考えているところでございます。
それから、教育現場における子供の自殺につきましては、まずは文部科学省において現在その関係分野の専門家や教育現場の方々から成る検討会を開催しております。そこでも、自殺予防や自殺が起きた後の対応に関するマニュアルの作成など、教育現場に関する自殺防止対策について検討していると私どもも承知しております。そういう検討の結果も、私どもの自殺対策総合会議に反映させながら総合的にこの物事を進めていきたいというふうに考えております。
山本孝史君
遺書がああやって出て、ここに四人の子供の名前があるんだと。だれなんだということでマスコミが追い掛けていくようなああいう形をやると、あれ校長先生一生懸命かばっていたと思うんですよね。だけど、だれが責任者なんだという、教育委員会が悪いのか、学校の先生が悪いのかという形は何にも生み出さない。結局その死ぬという手段があるんだということを子供たちに教えてしまっているだけの話になる。それは非常にまずい。それはあの岡田有希子が飛び降り自殺をしたときにみんな後、続いた、そういう話はもう御承知のとおりですよね。
だから、それを文部省に言わなければいけない、何省に言わなきゃいけないということが大変だから内閣全体でやってくれというので内閣府に特別に対策室を設けていただいたわけですから、是非そこを機能させてください。でないと法律を作った側としてそれは違うと私は思いますので、社会問題だという認識で是非取組をしてください。ということでよろしくお願いします。
お忙しいでしょうから、もう七つも八つも法律抱えておられる担当官ですから、よく分かっていますので、どうぞ御退席いただいて結構ですので。よくやってください。お願いします。
政府参考人(柴田雅人君)
ただいま山本先生から御指摘いただきましたことを肝に銘じまして仕事を進めてまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
質問要旨と答弁
山本孝史
いじめ自殺の報道が、「群発自殺」の引き金になる恐れがある。報道各社に「WHOの自殺報道のガイドライン」を守って報道するよう要請されたい。
内閣府
WHOガイドラインは、厚労省関係のHPに載せている。見てもらっていると思う。(政府全体として、もっと真剣に取り組んで欲しい。そのために「自殺対策基本法」を策定し、自殺は社会問題だと訴えたのだからと念押し)
山本孝史
石綿健康被害救済法ができたが、中皮腫治療薬のアリムタが承認審査中で自己負担でないと使えない。仏作って魂入れずの状態だ。同法の趣旨に沿って、被害者救済を進めるため、アリムタの購入費を国費で負担せよ。これは政治的判断の事項だ。
環境大臣政務官
現行制度では困難。安倍内閣は、効率の良い小さな政府を目指すが、国民の声を聞く、温かい政府だ(ホンマかいな!?)、現行制度のなかで対応する。
山本孝史
臓器移植法を参院で可決した時の附帯決議で、毎年、現状を委員会に報告することになっている。その報告を受けて質問。(1)健康保険証に臓器提供の意思表示欄が設けられるが、自発的意思であること、いつでも撤回できることを、保険証を受け取った人に伝えられたい。名前の上に線が引いてあれば、それは提供意思が撤回されたとみなすのか。
健康局長
よく検討する(ほんとに、トラブルが起きないように検討してよ。生殖補助医療に代表されるように、医療技術の進歩に、社会が追いついていない。国会にこそ、そうした生命倫理の問題を議論する場が必要だと思う)。
山本孝史
宇和島での腎臓売買について。移植ネットワークを経由しない死体腎や生体間での腎移植も、届出・登録制度を作るべきだ。
健康局長
生体間での移植について、審議会で検討中。ガイドラインを策定したい(病気で摘出した腎臓まで移植されていたことが、翌日判明。やはり、届出・登録制度が必要。場合によっては法律改正も必要)
山本孝史
社保庁改革案の取り扱い。
柳澤大臣
同法律提出後、社保庁の不祥事が発覚。与党側が、法案内容について、自分たちでもっと議論させよと言っている。厚労省の意向を与党が汲んでくれないので、厚労省としては選択の余地がない(与党は、来年の参議院選挙前に社保庁改革案を国会に提出するようだ。選挙を有利にする材料に、社保庁改革案を使わないで欲しい)
山本孝史
年金は高齢者の消費活動を支え、介護や医療は、地域の雇用も生み出しているのに、社会保障制度の縮小は地方財政をさらに疲弊させる。
柳澤大臣
有効求人倍率で見ても、地方との格差は否定しない。しかし、社会保障の根幹部分で、地方政策まで入れるのは無理がある。国庫補助事業の国費2分の1までについては、施策によっては増額を検討したい(東京の一人勝ち。東京栄えて、国滅びる)。
がん治療薬の保険外適用について
山本孝史
乳癌治療薬にハーセプチンという薬がある。転移の場合の治療薬となっているが、手術後に使うと、転移を抑えられる効果があると言われている。分子標的薬のグリベックも、いろいろながんに効きそう。いずれも良心的な医師は、さまざまな困難をかいくぐって使用している。ところが、レセプト点検ではねられる。このような抗がん剤は、他にもいくつか例があると思う。学会や医師に依頼してデータを集め、早期の適用拡大につなげることが望ましいのではないか。
医薬食品局長
併用療法検討会でプロセスを迅速化した(その検討会は昨年2月に店じまいしている。もっと患者の利益を優先して欲しい)
山本孝史
病院で多くのがん患者が「もう治療法がありません」と言われるが、それは、「保険の範囲内での治療法はありません」という意味。ガイドラインでいろいろな治療法が示されていても、病院独自の治療方針を持っている。包括払い(個々の患者の症状に関係なく、病状ごとに一定額を公的保険から支払う仕組み)が拡大しているが、新しい抗がん剤はみな高額なので、包括払いでは治療の選択肢が限られ、患者の追い出しにつながる。包括払いの危険性を認識して欲しい。アメリカの間違った医療体制を追随してはダメだ。
山本孝史
最大量投与での縮小至上主義は、良い結果を生まないように思う。根治が困難となった時は、QOLを維持しながら、日常生活をいかに長く続けられるかの勝負。財政難から、「抗がん剤治療の延命効果は短い」という議論が、やがて出てくるだろう。しかし、それは平均値で、患者によって薬の効果がない人、短い人もいれば、長い人もいる。平均では語れないことを理解して欲しい。患者の側も、単なる延命ではなく、治療の結果生み出していただいた時間に、何をするかを考えないといけない。
残念ながら、質問時間切れで、ここは指摘に止まりました。