社会保障に関する集中審議(質疑要約)

参議院

2005年3月10日 予算委員会で質問

年金改革は基礎年金改革(国民年金など、全国民加入の、いわゆる1階部分)に尽きるとの認識にもとづき、次の点で質問しました。

  1. 国民年金は定額、厚生年金は定率となっている基礎年金の負担方法を改め、加入者は同一の負担をするべきではないか(負担の一元化)
  2. 生活保護と基礎年金との給付水準について、どのように考えるか
  3. 基礎年金にもマクロ経済スライドを適用して、給付額を抑制することは妥当性に欠けるのではないか
  4. 基礎年金財源のひとつに、年金目的相続税を検討すべきではないか
  5. 高額年金受給者を含めて、基礎年金に一律で国庫負担を行うことを見直すべきではないか
  6. 公的年金制度への望ましい税投入のあり方とは、どのような姿か
  7. 保険料を納付できない人に代わって、国庫負担で保険料を払う仕組みに転換すべきではないか
  8. 年金額調整の仕組みであるマクロ経済スライドの効き目は、低成長下では遅くなるのではないか

「年金改革とは、全国民が給付を受ける”基礎年金”の安定化にある」と考える私は、小泉総理に、「基礎年金の負担のあり方や給付水準」について、どのような姿が望ましいのか、いろいろな考えがあるだろうから、総理の考えを述べて欲しいと願って質問したのですが、見事に期待は裏切られました。

小泉総理は、昨年の失言が参院選の敗退につながったという苦い思いからでしょうが、失言を恐れ、言質を取られまいと、制度の複雑さを理由に逃げの一手に終始。説明責任をまったく果たそうとしませんでした。

前日までに、質問の趣旨を官邸の担当者に伝えているし、総理自身も経済財政諮問会議で聞いているはずの内容に過ぎないのですが、答弁を逃げる不真面目な姿勢は、年金制度の問題点は何かを理解しようとすらしないのだと断ぜざるを得ません。国民生活の安定という、政治にとって最大の仕事を為すべき指導者としては失格ではないでしょうか。そんな総理に、「三党合意の履行を」などと言われる筋合いはないとすら思ってしまいます。
以下要約です。審議の模様はNHKで全国放送されました。

基礎年金の「負担の一元化」が最優先課題

山本孝史

すべての国民が、職業が何であるか、あるいは職業に就いているか就いていないかにかかわらず、国民年金という同じ制度に入っている。給付は満額で月額約6万6千円とみんな同じ(一元化されている)。しかし負担は、1号被保険者は定額、2号は所得に応じての定率負担と異なる(一元化されていない)。このことについて総理はどのようにお考えか。

小泉純一郎総理大臣

それはもう難しい制度。この複雑な制度を、私、厚生大臣時代から何度も聞いていますが、説明を受ければ受けるほど難しい制度ですよ。各給付もそれぞれ収入によって違ってくる。又は率において負担も違ってくる。それで、共済も厚生も国民年金も、収入においても自営業者とサラリーマンは全然違いますから、そういう制度を一応基礎年金の部分で横に全部一度貫いちゃう。

 そこで、給付と負担の点について難し過ぎるから一元化の話が出てきているわけでありますが、私はこういう複雑な制度より年金一元化がいいという議論はよく分かっております。だからこそ、この議論を早く進めようということで呼び掛けてきたわけでありますが、ここでこの制度の仕組みを説明するのがいいでしょうか。こういう場で、余りにもややこしいんじゃないでしょうか。大枠の、この各大臣が出席して、その制度の仕組みをどうかという大ざっぱなことは国民も分かると思いますが、具体的になればなるほどこれ複雑になってくる仕組みなんです。

 普通質問する人は答弁する人よりも分かってないはずなんですが、今日の場合は、山本議員は答弁する方よりもよく分かっている方であります。そういう点について、これからの年金の問題について、私は、今指摘された山本議員の一元化に対するそれぞれの複雑な仕組み、問題点、各党でよく協議して一つの方向を生み出すことができればなと思っております。

山本孝史

国会議員も1万3,300円、全く収入のない方も1万3,300円払ってくださいという仕組みで、非常に逆進性が強い。負担が一律でないまま放置しておいていいのか。

小泉純一郎総理大臣

これは、もうかなり前から年金一元化ということを真剣に政府は考えてきたんです。しかしながら、今言ったような難しさが残っていてなかなか進んでいない。ようやくこれから厚生年金と共済年金の一元化問題が現実の問題になろうとしております。その後の国民年金というのはこれからの話でありますが、私は、その公平な負担と給付というものを考える場合には、やはり納税者番号という問題も避けて通れないと思っております。そういう点について、率直にこれから協議を始めた方がいいんじゃないでしょうか。

基礎年金の性格を明確にすべきだ

山本孝史

基礎年金の保険料負担について、一律定額にすればいいという主張がある。私は、2号の勤め人の中では、定率で保険料を払って定額の年金をもらうので、所得の再分配を行っており、いい制度だと思う。1号の保険料は1万6,900円まで上がり、定額での負担は極めて重い。

 自民党や政府は、年金は社会保険方式でなければいけないと言い続けている。それほど社会保険方式にこだわるのであれば、定率で負担して定額で給付するということについてどう考えるのか。質問を変えれば、一体基礎年金とは何なのか。所得再分配なのか、あるいは保険なのか。

尾辻厚労大臣)すべて御存じの上でお尋ねということはさっきから、総理からもお話し申し上げたとおりであります。あえてお答えをいたしますと、やはり私どもはあくまでも保険だというふうに考えておるところでございます。

山本孝史

給付水準の問題だが、保険料を払って受け取る年金が生活保護より少ないのはおかしいとの声がある。総理は、基礎年金額が低過ぎる、あるいは生活保護の水準が高過ぎるとお考えなのか。

小泉純一郎総理大臣

この年金制度できたときには、あんなわずかな年金もらったって小遣い程度だよと言って批判した人もいたわけです。しかし、今は、もう年金というのは、お小遣いどころじゃない、生活の大きな柱です。

 そういうことから、年金を負担する、受け取る方の意識も変わってまいりましたが、確かに生活保護の方が多い。自分のもらう年金はこれまで掛けてきたのに少ない、おかしいと思っている方もたくさんおられますが、元々、生活保護と年金という、質が違います。これから与野党協議なさると思いますが、じゃ生活保護で面倒を見るのか、年金で全部生活面倒見るのかという、もうそもそも論から入っていっちゃう。そうなると、税金で全部見た方がいいという考えも出てくると思います。しかし、税金で全部見るとなると、それでは所得の高額者と低所得者、どうなるのかという問題も出てきます。いろいろな問題があるからこそ、こういう問題については、私は早く協議を始めた方がいいということであります。

山本孝史

基礎年金を夫婦それぞれがもらっている間は何とか生活ができたとしても、一人が亡くなると基礎年金一人分になり、その時点で生活保護に転落をする高齢者世帯が非常に多い。今、生活保護を受けている方のほぼ半分近くは高齢者だ。生活保護で税金を使うというよりは年金としてもらうという形に切り替えることを考えた方が良い。

 いずれにしても、やはり基礎年金とは何かということの議論が非常に重要だ。基礎年金は何かということについて国民の側にしっかりメッセージを伝えないといけないのではないか。

マクロ経済スライドの基礎年金適用問題

 去年の参院厚労委で、私の質問の後で強行採決がなされた。そのときに総理にお聞きした年金給付抑制策のマクロ経済スライドが、実は基礎年金にも掛かる。したがって、満額約6万6千円の基礎年金が、これから2023年までの間に、15%カットされ約6万円になる。

 基礎年金とは何なのかと考えたときに、マクロ経済スライドを基礎年金まで掛けたのは、あのときも主張したが、間違いではないか。

小泉純一郎総理大臣

私は間違いだとは思っておりません。財政を均衡させなきゃこの年金は持続できません。そして高齢者はどんどん増えてまいります。そして負担する方の財政をどう均衡して持続させるかということになりますと、これは給付を若干抑制してもらうということで、物価スライド、賃金スライド、総合的に考えてなされた方式でありますので、私は間違いだったとは思っておりません。

山本孝史

基礎年金満額の約6万6千円をもらっている方が少ないことは総理も御承知のとおりだ。その金額が15%カットされる。基礎年金という表現を使っているのは、高齢期における生活の基礎的な支出を賄うということだ。これはできるだけ早く元へ戻さないと高齢者自身の生活が成り立たなくなってくるだろう。

社会保障財源としての相続税増税の検討を

 一つの提案だが、年金目的相続税というものは考えられないだろうか。年金制度を通じて、言わば社会全体で扶養させていただいた。そこで、一生を全うされたときに、もし財産が残ったとすれば、そのお子さんにいくのではなくて、社会の方に返していただくという考え方だ。

谷垣禎一財務大臣

政府税調の議論は、経済も大分ストック化が進んできたとか、それから、人口構成も高齢化してきた。それで、結局高齢者の資産保有の割合は高まっている。
そうすると、資産の再分配機能を有する相続税はもう少し役割を果たしてもらうべきではないか。相続税の負担が重いという議論がどちらかというと中心だったが、もう少し相続税の再分配機能というのに着目すべきではないかという議論が一つございます。

 それからもう一つは、今のお話もそうですけど、老後の扶養を社会全体で支える傾向が強まってきている。老後の扶養の社会化とでも言うんでしょうか。だから、それは相続時に残された個人資産からその一部を社会に還元する観点から、負担を求める必要性も高まっているじゃないかと。そういう議論も一方にあって、相続税について、より広い範囲から、適切な税負担を求めるために、相続税の課税ベースを広げる必要がありはしないかという議論が行われている。

 そういう中で、今、山本委員の御提案の相続税を、基礎年金の目的税としていくのはどうかということだが、相当考えなきゃならない問題点があると思う。要するに、基礎年金というのはすべての高齢者が対象だが、これはどれだけ相続税を課していくかということもございますが、現状ではお亡くなりになった方100人のうち5人程度が相続税を納められると。これは、ですから受益者と、受益と負担の関係をどう整備して整理していくかという問題が一つあると思います。

 それからもう一つは、遺産のうち、確かにもう一つはそういう社会化が進んできたという議論があるわけですね、老後の生活の。ただ、遺産というものは必ずしも皆の社会的扶養といいますか、そういうことだけで形成されてきたものではないということがございます。要するに、相続財産すべてに相続税は対象となっているということがございます。そこをどう考えるかと。

 それから、最後にやはりその量的な問題として、大体今1兆2千億円ぐらいです、一年間の相続税収が。 さあ、それがこれからの基礎年金、3分の1から2分の1に持っていくというときの財源として、基礎年金の財源として十分なものたり得るかといったような問題があると思うんですね。

 だから、こういう辺り、まだ議論は完全に我々も煮詰めて決着を付けたというわけではないんですけれども、こういう辺りをどう考えていくのかということがあり、まだ我々としてはいろんな議論が必要じゃないかと思います。

山本孝史

年金目的と申し上げたので、少しそこに限定されたのかもしれないが、老人ホームや、これから議論される高齢者医療制度など、高齢者の生活なり医療なり福祉を社会全体で、税金で支えるという形になってくる。社会保障財源として相続税の増税を考えてみたらどうだろうか。

小泉純一郎総理大臣

私は、できるだけ目的税というのは避けた方がいいと思っているんです。消費税を最初に導入したときに3%、これは福祉目的税にしようという議論が出ました。大方の福祉関係者の意見を聞いてみたところ、圧倒的に反対論者が多かったですね。というのは、この消費税を福祉目的税にした場合には、これからの将来考えると、必ず福祉関係の費用はどんどん増えていくと。そうすると、3%が必ず上がっていかないとこの福祉の手当てはできない。で、消費税上げるっていうことを反対すると。じゃ、福祉は拡充できない。そう言われるのが嫌だから、福祉関係者の方がこの3%を導入するときに目的税に反対したというのはよく覚えています。

 相続税の問題についても、私は、それぞれ個別に、余り目的税というものに使われない方がいいのではないか、一般財源として必要な財源は確保するという中で考えていった方がいいのではないかなと思っております。一つの案としては検討していく必要があると思います。

基礎年金への税金投入のあり方

山本孝史

基礎年金制度への税金の投入の在り方だが、基礎年金給付時に給付額の3分の1を国庫負担するという形になっている。したがって、高額年金の方にも税金を差し上げるということになる。

 今度、3分の1を2分の1にもし引き上げたとすれば、高額年金の方にも更に税金を投入するという形になる。基礎年金制度における税金の投入の在り方というものについて、どのように考えていったらいいのか。

谷垣禎一財務大臣

随分いろんな議論を経済財政諮問会議でも議論した。べたで入れるのがいいのかどうかというのは相当いろいろ問題意識があり、塩川大臣は、やっぱりそれはいけないんじゃないか。税金は、広く薄く集めたものをべたっと広く薄く使っちゃ効果が出ないんで、やっぱり必要なところに重点的に投入するという方向で考えるべきではないかという御意見を経済財政諮問会議でも言っておられた。私も、就任したとき、まだ議論、決着が付いておりませんでして、私も税の使い方としてはそういうことかなと当時考えていた。しかし、いろんな議論の中で、やはりマクロ経済スライドが入って、そういうことで持続可能性を担保しようと。

 その上で、委員もおっしゃいましたが、基礎年金というのはやはり老後の生活を支える、すべての国民の老後の生活を支える基礎的部分だから、そこは税を3分の1から2分の1に入れていくという方向で問題点を整理した。

保険料負担時に国庫負担するアイデア

山本孝史

税の投入の仕方として、保険料を払えない人について、代わって国費で保険料を払ってあげる。すなわち、給付時の国庫負担ではなくて、納付時の国庫負担というものにしたらどうだろう。
介護保険制度は、生活保護の人も国が代わって保険料を払うという仕組みにした。国民健康保険でも、低所得のために保険料を減免した分、税金を投入するという仕組みをとっている。
年金制度では、生活保護や低所得者は免除を受けると、年金保険料を払わなくてもいいということになっているが、年金額が減額される。

 したがって、年金保険料を払えなかったという苦しい期間が続くと、年金額が減額され、老後においても苦しい生活が続いてしまう。苦しい人は一生涯貧しいままに過ごせというのが今の日本の年金制度だ。
そうではなくて、負担をするときに払えない人に代わって税金を納めてあげれば、それによって今度は、年金は満額を受給できる権利が生じる。そのように税金投入の仕方に変える。イギリスでもそのような改革をした。

尾辻秀久厚生労働大臣

私どもはこの年金を完全に保険の世界で理屈付けをしてきた。先生のお考えというのは、保険の世界と福祉の世界をうんとこうミックスさせて全体考えようというお考えで、ここのところが非常にそれぞれの考え方の違いだし、正にその辺の議論を今してみる必要があるだろうなと思ってお聞きをしておりました。

マクロ経済スライドの効き目

山本孝史

もう一度最初の質問に戻る。マクロ経済スライドの問題だが、マクロ経済スライドは、与党の皆さんが言われるように大変に大きな改革。将来にわたって15%給付をカットする。
従来の年金は賃金スライドをしていた。現役の賃金が上がれば、年金を受けている方たちも同じように その便益を受けるということで賃金分だけ上がった。それでは給付が抑制できないというので、賃金スライドを捨てて物価スライドにした。物価分だけは上げますということにした。
それでも給付の抑制が利かないので、今度は物価スライドから一定率0.9%(平均値)を強制的に引いて、年金額を抑制する。それで2023年までに15%削減する。

 しかし、マクロ経済スライドが利くかどうかは、経済が成長するか、すなわち賃金が上がるか、物価が上がるかに左右される。名目年金下限法といって年金額そのものは減額しないということにしているので、16年度のように物価上昇率がゼロだと年金額は0.9%下げれない。

 日本の経済成長はこれから先、人口が減少してくると、ますます難しいのではないかと言われている。その中で、想定されているような給付と負担のバランスがうまくとれるのか。マクロ経済スライドの効き方がどうなると認識しているのか。

小泉純一郎総理大臣

確かに、デフレが続いていけばこの効果は発揮し得ない、マクロ経済スライドの。しかし、私は、デフレを克服すると、2006年度には、物価上昇率をプラスにするという、見通しのとおりになっていくと思っております。

 現に、今まで戦後、デフレというのはなかった、経験したことがなかったわけで、今まではいかにインフレを抑えるかということに政府は苦心してきた。今、逆にデフレを克服することに苦心している。これは長く続くとは私は思っておりません。そういうことから、現在の政府の見通しにおいても、あるいは目標においても、デフレを2006年度に克服するという、そういう目標が達成されるように努力していきたいと。

 いずれこの物価スライドというのは効果を発揮すると思っております、ああ、マクロ経済スライドは効果を発揮すると思っております。

社会保障制度全体の給付と負担を検討せよ

山本孝史

いずれにしても、経済財政諮問会議で言われているような、国民所得の伸び率の中に医療費の伸びを収めるということは、私は不可能だと思う。高齢化が進むし、医療技術が進む中で医療費の増大は抑え切れないだろう。
小泉改革と称して、安心への備えがないままに競争社会に突入していけば、格差が広がるばかりで、社会は非常に不安定になり、国民の不安は募るばかりだと思う。

 自民党の先生方は家族主義に復帰すればいいじゃないかと言うが、家族主義に復帰するというような時代錯誤なことはもうできない。家族の機能は社会に渡してきたし、それによって経済は実は成長していくのだと私は思っている。
安心が実感できる社会をつくる。そのことに私たち民主党は全力を挙げて取り組むということを申し上げて、私の今日の質問は終わりたい。