質問主意書

質問第六八号
社会保険庁における年金保険料の記録・保管に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

平成十九年七月四日 山本 孝史

 参議院議長 扇 千景 殿


社会保険庁における年金保険料の記録・保管に関する質問主意書

  私は、平成十九年六月十二日の参議院厚生労働委員会において、日本年金機構法案外二法案に関連して質疑を行った。その際、青柳社会保険庁運営部長の答弁の一部に、その趣旨が明確でない箇所があった。また、国民の間に渦巻いている年金不信の解消策を講じること、すなわち、社会保険庁において、支払済みの年金保険料が正確に記録・保管されていることを確認する手立てを早急に講じる必要がある。これら二つの問題について、政府の見解を示されたく、以下質問する。

一 年金保険料払込状況の早期通知の重要性について

  私は質疑で、「基礎年金番号の統合作業に関連して、その当時に年金を受給していた者も含めて、保険料払込状況を通知し確認を求める作業を行っていれば、年金受給者や被保険者側の記録や記憶等によって、社会保険庁が管理している記録には年金納付記録が抜けていることが判明した者が多数いたと思われる。その結果、他の基礎年金番号との統合ができたり、あるいは、国民年金保険料を追納したりすることによって年金受給資格である二十五年間の加入実績を満たすことができた者や、年金額を増額させることもできた者がいたのではないか。厚生年金においても、二十年間の加入資格を要する加給年金の受給資格を得るための努力をした者もいたのではないか。」などと指摘した。

  1. 一般論として言えば、私が主張するように、早期に年金保険料加入期間を通知していれば、本人の年金受給権確保や年金額の増額に寄与したかもしれないことを、政府は認めるか否か明らかにされたい。
  2. 年金保険料払込状況、特に国民年金保険料の払込状況を早期に通知しなかったことによって、二十五年間の加入が要件とされる国民年金の受給権を得ることができずに無年金となった高齢者、あるいは、低年金に甘んじざるを得ず、厳しい老後生活を強いられている高齢者が多数いる。これらのことについて、政府の認識を明らかにされたい。

二 年金保険料納入状況が正確に記録・保管されていないことについて

  私が「加入記録が正しく記録されていないのではないかということに思いが至っていた年金局なり、社保庁の偉い人なり、社保庁の職員というのは一人もいなかったのか。」と質疑したことに対して、青柳部長は、「年金記録が間違っているということを公言した人間は、残念ながら私は承知をしておりません。」と答弁した。この答弁は、今後の日本年金機構の組織運営を検討するに当たって、重要な要素を含んでいると考える。

  1. 青柳部長が「公言」という言葉を使うよりどころを明確にされたい。また、「公言した人間」とは、どこで、どういう発言、どういう記述をした人間でなければ、「公言」ではなく、「承知していない」という認識に至るのか明らかにされたい。
  2. 青柳部長は、「年金記録が間違っているということ」をどういう形で示されれば、「公言」したと受け止めたのか。次の三つの事例について、それぞれ答弁を求める。
  3. (一) 例えば、保険料納付記録業務を担当する管理職が、公式の会議の場ではないところで、「年金記録が間違っている」と青柳部長に伝達しても、それは「公言」に当たらないとの認識か。これが、管理職ではなく、一般の職員から知らされた場合は、「公言」に当たるのか、政府の認識を明らかにされたい。
    (二) 青柳部長によれば、公式な会議の場での発言でなければ、「公言」にはならないのか。例えば、全く同じメンバーが、会議終了後に、その場で交わした会話の中で、「年金記録が間違っている」ということに触れても、それは「公言」したことにはならないのか、政府の認識を明らかにされたい。
    (三) 公式の会議に出席した同様のメンバーが、異なった場所で「年金記録が間違っている」ということに触れても、それは「公言」したことにはならないのか、政府の認識を明らかにされたい。

  4. 青柳部長の認識に従えば、「公言」はしていなかったが、「年金記録が間違っている」との認識を示していた人間が存在したということか。明らかにされたい。
  5. 「公言した人間は承知していない」としても、「年金記録が間違っている」との認識を示していた人間が存在したとの趣旨で答弁したのであれば、青柳部長は、そのような認識を、いつごろ、どのような経緯で知ったのか。また、知った以降に、どのような措置を講じてきたのか、それぞれ明らかにされたい。
  6. 社会保険庁の資料によれば、平成十三年度から平成十九年二月までの間に「再裁定」をした者が約二十二万人弱存在する。平均すると、毎年三万七千件となる。このような多数の「再裁定」が行われているという事実を、村瀬社会保険庁長官及び青柳部長は承知していたのか。また、承知していたとすれば、いつごろ、いかなる経緯によって知ることとなったのか、それぞれ明らかにされたい。
  7. 新聞報道によれば、厚生年金基金の解散に伴う当該年金基金と社会保険庁との間で、加入・納入記録を照合した際、全体の数パーセントで一致しなかったという。この事実を、村瀬長官、青柳部長は、いつごろ、いかなる経緯によって知ることとなったのか、明らかにされたい。

三 国民の年金不信を解消するための施策について

  安倍内閣総理大臣は、いわゆる「宙に浮いた年金記録」問題の全面的解決、年金受給権者への「一円の違いもない」正確な年金の給付を公約している。

  1. 基礎年金番号の統合作業において、約一億通の郵便物を送付し、被保険者に対して、他に加入していた年金はないか、二つ以上の年金手帳をもらったことがあるかとの照合を求め、「ある」という者には、添付されていた「返信はがき」によってその旨を回答するよう求めた。その結果、約九百万件の返信はがきが寄せられた。これらの「他制度加入照会回答者」に対する調査及び回答にかかわる業務は、はがきが送付された平成九年一月からではなく、翌平成十年度から平成十四年度までの五年間を要して行われた。このことは社会保険庁が公表した資料でも明らかとされてはいるものの、これらのことに誤りはないか、明らかにされたい。
  2. 「他制度加入照会回答者」への措置は、そもそも五年なりの年次計画をもって措置することとしていたのか。あるいは、作業量が多いために初年度では終わらずに、次年度、更に次々年度へと、繰り越した結果なのであるのか、明らかにされたい。
  3. 村瀬長官や青柳部長は、「宙に浮いた記録」が五千万件もあるということは、民主党が要請した衆議院の予備的調査によってその事実が明らかになった本年二月まで、気付かなかったと国会で答弁しているが、この答弁に間違いはないか、明らかにされたい。
  4. 社会保険庁が行ってきた「過去記録の整理」実施状況によれば、年間百五十万件から多いときには年間四百万件近い照会・回答作業を行ってきた。なぜ、そのような業務を、十年近くも行っているのかと疑問を持てば、基礎年金番号の統合作業を源とする業務であるとすぐに理解することができたと思われるのだが、村瀬長官や青柳部長の答弁どおりに、本年二月まで知らなかったとすれば、それは、村瀬長官も青柳部長も、現場での業務内容を余りにも知らなかったという事実を示しているのではないのか。このことについて、政府の見解を示されたい。
  5. 村瀬長官や青柳部長は社会保険庁関連予算の編成責任者であると受け止めているが、「過去記録の整理」実施状況の進展状況や、その業務のそもそもの経緯を知らずして、この間、予算編成や人員の確保・配置を行ってきたということになる。そのように受け止めてよいか、政府の見解を示されたい。
  6. 「過去記録の整理」実施状況を参考にすると、安倍総理が公言している「年金記録の確認・是正作業を一年以内に終わらせる」との作業目標は極めて高い。この作業は、「宙に浮いた年金記録」問題の解決とは別途のものである。どのように実施し、国民との約束を果たす考えか。国民に分かるように説明されたい。

四 社会保険庁の執行部と現場との意思疎通について

  新聞報道によれば、安倍総理は会合で、「年金の記録問題も、長年の悪しき労働慣行のがんがはびこっているところに大きな問題がある。上から下を見るような気持ちが社会保険庁にあったのは事実だ。そうしたことも含めて、ゴミを一掃しなければいけない。」と語ったとされる。

  1. 労働組合には批判されても致し方のないところもあると思うが、その人たちに対して「ゴミ」などと人間をさげすむような発言で批判するのは、余りにも下品であり、「美しい国」を目指すという安倍総理が口にする言葉ではない。安倍総理自らに「上から下を見るような気持ち」があるのではないか。安倍総理の見解を明らかにされたい。
  2. 社会保険庁長官は、正に天下りで社会保険庁にやって来て、短期間の就任後、高額の退職金を手に、次の厚生労働省関連団体に「渡り」、そこでまた、高額の退職金を得る。運営部長等も、数年の勤務が終わると本省に戻ったりする。各地の社会保険事務局や社会保険事務所においても、こうした人事が行われている。そのような人事慣行の中で、一線で働いている職員に高い労働意欲を持たせるのは極めて困難であるとも思うが、政府の見解を明らかにされたい。

五 社会保険庁の不祥事に対する政府及び社会保険庁の責任の明確化について

  社会保険庁において、年金保険料納付記録が正確に記録されていないといった不祥事が発覚したが、いまだ誰も責任の所在を明確にしていない。一方、ほぼ同時期に、損保・生保会社においても、保険金未払い問題等が相次いで発覚し、社長などが責任の所在を明らかにするとして辞任した。村瀬長官は小泉前総理の要請によって、損害保険会社副社長の立場から社会保険庁長官に就任した。私は、今回の社会保険庁の不祥事を解決するには、年金保険料納付記録の確認を国民の理解と協力の下で行う以外に方策はなく、そのためには、社会保険庁長官や運営部長などの責任を明確に示すことが、すべての出発点にならざるを得ないと考える。
  村瀬長官は、損害保険会社副社長から転身した訳で、その両者の立場からすれば、現在も社会保険庁長官にとどまっていることは、決して国民の理解や協力を得ることにはならないと考えるが、村瀬長官を始め政府の良識ある見解を明らかにされたい。

  右質問する。

答弁書

答弁書第六八号
 内閣参質一六六第六八号

平成十九年七月十七日 内閣総理大臣 安倍 晋三

 参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員山本孝史君提出社会保険庁における年金保険料の記録・保管に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


参議院議員山本孝史君提出社会保険庁における年金保険料の記録・保管に関する質問に対する答弁書

一について

  御指摘のように、早期に年金記録の通知を行うなどの方法により、被保険者に年金記録の確認を求めることは、正確な年金記録の管理のために極めて重要と考える。その意味において、従来は、最終的には年金裁定時に年金記録を確認すれば足りるとの認識があったと考えられ、このような従来の姿勢及び取組を抜本的に改めなければならないと認識している。

二の1から4までについて

  広辞苑では、「公言」とは、「隠しだてせず、人前で公然と言うこと」とされているが、いかなる状況における発言が「公言」に当たるかは個々の状況により異なるものであるため、お尋ねについて一概にお答えすることは困難である。

二の5について

  村瀬社会保険庁長官及び青柳社会保険庁運営部長によれば、本年二月の「国民年金・厚生年金の納付した保険料の記録が消滅する事案等に関する予備的調査(松本剛明君外四十二名提出、平成十八年衆予調第四号)についての報告書」(以下「予備的調査報告書」という。)の取りまとめの過程において、平成十五年四月から平成十八年十二月末までの国民年金又は厚生年金保険の受給権者(以下「受給権者」という。)の年金の裁定を変更する処理(以下「裁定変更処理」という。)の受付件数が約十四万件強存在することを認識したとのことである。なお、御指摘の平成十三年四月から本年二月末までの裁定変更処理の受付件数が約二十二万件弱存在することについては、本年三月の国会議員からの資料要求に係る資料の取りまとめの過程において認識したとのことである。

二の6について

  厚生年金基金の代行返上(厚生年金基金が厚生年金の代行部分の支給義務を国に移転し、確定給付企業年金へ移行することをいう。)の際に、社会保険庁がオンラインデータ上に保有する厚生年金保険被保険者原簿と厚生年金基金が保有する加入員原簿との間に齟齬があることが判明する事例があることは承知しているが、具体的にどの程度の割合で齟齬があるかについては把握していない。

三の1について

  平成九年一月の基礎年金番号の通知の際に行った「現在加入している制度以外の公的年金制度に加入したことがある」又は「二つ以上、年金手帳をもらったことがある」に該当するかどうかの照会に対して回答があった者のうち昭和十七年四月二日以降に生まれた者(以下「他制度加入照会回答者」という。)については、平成十年度から平成十四年度までの間に、基礎年金番号が付されていない又は基礎年金番号に統合されていない年金手帳記号番号に係る記録について照会を行い、当該記録の基礎年金番号への統合(以下「過去記録の整理」という。)を進めてきているところである。

三の2について

  他制度加入照会回答者の数が膨大であったため、まずは、平成十年度において、他制度加入照会回答者のうち年金の裁定請求を間近に控えた同年度に五十六歳に達する者に対して照会を行い、平成十一年度以降においては、平成十年度の照会実施状況等を踏まえ、平成十四年度までにその他の他制度加入照会回答者への照会を終了させることとしたものである。

三の3から5までについて

  社会保険オンラインシステムによって管理している基礎年金番号が付されていない又は基礎年金番号に統合されていない年金手帳記号番号に係る記録(以下「未統合の記録」という。)が約五千万件存在することについては、本年二月の予備的調査報告書の取りまとめの過程において明らかになったものであるが、村瀬社会保険庁長官及び青柳社会保険庁運営部長によれば、同年二月以前にも未統合の記録の存在については認識していたとのことであり、社会保険庁においては、その認識に基づいて過去記録の整理のために必要な予算措置等を講じてきているところである。

三の6について

  政府としては、本年七月五日に年金業務刷新に関する政府・与党連絡協議会において取りまとめた「年金記録に対する信頼の回復と新たな年金記録管理体制の確立について」に基づき、受給権者又は被保険者(以下「受給権者等」という。)に係る記録及び未統合の記録について、同年十二月から平成二十年三月までを目途に名寄せを実施するとともに、これと並行して、厚生年金保険の被保険者台帳に係る記録のうち昭和二十九年四月一日以前に被保険者の資格を取得して同日以前に資格を喪失し、昭和三十四年三月三十一日までの間に再取得していない者等に係るもの(以下「旧台帳の記録」という。)について、磁気ファイル化した上で受給権者等に係る記録との名寄せを実施することとしている。名寄せの結果、まず、未統合の記録を基礎年金番号へ統合することができると思われる受給権者等に対して、本年十二月から平成二十年三月までを目途(旧台帳の記録に係る者については同年五月までを目途)に、その旨と国民年金又は厚生年金保険の被保険者期間の加入履歴(以下「加入履歴」という。)をお知らせすることとしている。次に、名寄せの結果、当該お知らせの対象とならなかった受給権者等についても、加入履歴をお知らせすることとし、そのうち、現に年金を受給している者については、同年四月及び五月を目途に優先してお知らせし、それ以外の者については、同年六月から十月までを目途に、順次お知らせすることとしている。

四の1について

  安倍内閣総理大臣の発言は、社会保険庁改革について、「親方日の丸」的な組織体質の一掃等に取り組む必要がある旨を述べたものであり、人間をゴミに例えてはいない。

四の2について

  新たに発足する日本年金機構においては、組織を非公務員型の公法人とすることによって、かつての人事の在り方によるのではなく、役職員の能力及び実績に基づく人事及び給与体系の徹底を図ることとしている。

五について

  年金記録をめぐる諸問題については、現在、政府部内において、事実関係の調査を行っているところである。また、年金記録問題検証委員会の会合が本年六月十四日より開催されているところであり、まずは、同委員会において、今回の問題の発生の経緯等について検証を行った後に、その結果も踏まえ、政府として適切に判断することとしている。