医療政策充実を訴える 山本孝史さん「救える命失われている」〔読売新聞「顔」〕

読売新聞「顔」 2006年6月9日

読売新聞「顔」 2006年6月9日掲載

  「これを足がかりに他の病気でも医療政策が充実すれば、大きな一歩なのかな」

  16日の参院本会議。「がん対策基本法」の成立を見届け、ほっとした表情を見せた。医療制度改革で激しく対立していた与野党だったが、この法律は全会一致で成立。党派を超え、「山本さんの願いをくみ取りたい」と歩み寄った結果だった。

  昨年12月、血液検査でがんが疑われた。急きょ胸部のCT写真を撮った。「ここに黒い影がありますね」。突然の宣告だった。

  だが、過去に家族にがん患者がいたこともあり、「いつかこういう時が来ると思っていたので、不思議なくらい冷静だった」。

  抗がん剤の副作用で髪が抜け、かつらをかぶった。別人に間違われるほど、ほおもこけた。それでも「私の病状は軽い方」と、国会には通い続けた。

  5月22目、参院本会議で医療制度改革関連法案の代表質問に立った。がんであることを初めて告白し、小泉首相を前に訴えかけた。

  「救える命がいっぱいあるのに次々と失われている」

  自然と涙がこぼれた。質問時間が数分過ぎたが、扇千景議長は遮らなかった。

  兄を交通事故で亡くし、議員になるまで約20年間、交通遺児の支援に没頭した経歴を持つ。

  「事故と違い、がんは自分の仕事をやり遂げる時間が与えられているんですよ」

  7歳で他界した兄を思い、命の尊さをかみしめる。

(政治部東武雄)